『台所大平記』(谷崎潤一郎作・池淵厚子朗読)最後まで視聴しました。とってもよかったです。

【朗読】谷崎潤一郎『台所太平記』【文豪の家で働く女中さん列伝!】https://youtu.be/0kfuZT6GYpg?si=xD1dAFEAZeR-FYLw @YouTubeより 池淵さんの讃子(松子)最高!
『細雪』読んだ方、まだ未読の方にも是非お勧めです。楽しいし最後は感動しますよ。
簡単に登場する女中さんを紹介
【ハツ】泊出・谷崎家に二十年近く務めた実質女中頭。和歌山に嫁ぐ。詳細は前回参照
【ウメ】泊出・真面目だがテンカンの発作を発症し度々騒動を起こす。ハツの弟に嫁いでいく。
【コマ】女中列伝随一の奇行強烈な人物。驚いたり興奮すると「ゲッツ」と奇声(嘔吐含み)発する癖がある。女学校(師範科)出でゴリラの真似とフラダンスが得意。自称花王石鹸で容姿の不味さは自覚していて、結婚できるか悩むが後年良縁に恵まれる。ハツの後継者として谷崎家の信頼を得ていた。
【テイ】薄幸の苦労人だが性質No.1で慈愛の深い女性。良縁に恵まれ谷崎家から最初に嫁入りした女中さん。逗子で寿司屋の女将さんとなり女中OGの出世頭。
【サヨ】偏執的な性質を谷崎から嫌われて遂には解雇される。松子が紹介した次の雇い主家で大事件を起こす。
【セツ】泊出・故郷に一児ありのシングルマザー。サヨ退職後しばらくして彼女を追って上京しレズビアン騒動を起こしてしまう。

【スズ】谷崎家美人女中の東横綱。女優津島恵子(↑)似。ただし教養なく谷崎に文字を習う。その成果もあり瞳に知性の輝きを得て益々美しくなった。同僚ギンの窮地を助けたりした陰徳もあって良縁に恵まれ谷崎家から嫁いでいく。
【ギン】泊出・谷崎家美人女中西横綱。薩摩おごじょらしいハッキリした性格。買い物中自転車で橋から川に転落して額を切って大流血事件を起こしたことから眉間に傷が残る。が、二十歳を過ぎるとその美貌に周囲が響めく。熱海時代にダメンズ光雄に入れ上げハラハラさせられるが見事ゴールイン。スズと共に谷崎家から嫁ぎ、晩年の谷崎ともっとも身近な家庭を築いた。

ギンのイメージ 柴咲コウ⁈
【ユリ】列伝中最大のトラブルメーカー。しかしその個性を谷崎は大いに好んだ。が、周囲との軋轢でどうにも庇いきれなくなり本人の希望もあって(高峰秀子らしき)女優の付き人となる。が、そこでもしくじり大阪に戻った残念な人。性格最悪🌀
見繕って数人(名前横の泊出は鹿児島泊出身)を簡単に紹介です。
この愉快でハラハラアッとホームドラマには松子(谷崎家)と潤一郎の優しい眼差しがある。女中というと封建的差別の臭があるでしょうが、それをまったく感じさせない。花登筺の浪花奉公人ど根性哀歌なんて微塵もなし。それを小説フィクションだからという人もあるでしょうが、いやいや彼女たちのその時々のその後の縁(えにし)からそれは的外れ。
奉公後にパーマネントのショックでテンカンの発作を発症したウメは月に一二回大変な騒動で女中達は恐怖に震え上がり、コマなどは例の「ゲッ!」を連発し庭で吐いている始末。発作後は必ず失禁して翌日は寝たきりになったウメを谷崎家は解雇していない。どころか、阪大病院に度々診てもらっている。そして長く勤めた後、ウメはハツの弟に嫁いでいくのです。二人は義姉妹となり谷崎の喜寿のパーティーにそれぞれの子供を連れて出席していました。

傑作だったのはコマとウメが映画『哀愁』を観に行ってあまりの悲しさに感極まったコマが号泣と「ゲッ!」発作が始まり慌ててトイレに逃げ込んだのですが、残されたウメも感染して哀しくなって劇場でオイオイ泣いてしまい観客から大顰蹙だったエピソードは笑っちゃいけないけど爆笑しました。
翌日、ウメは2階のベランダで大イビキかいて昏睡状態で発見! 無論失禁して。大変だなあ😅
ま、阪大の医師が言ったように結婚したら完治したようです。よかった
あと、美人女中スズとギンは下手な放送作家なら歪み合わせるとこですが、小説より奇なりで、ギンの彼氏がヤクザ(100%稲川会)に博打の借金で指詰めを迫られ絶対絶命のピンチにギンはスズを頼り、スズもそれを快く引き受け5万円用立て「だけど絶対に光雄をヤクザから足を洗わせなさい」と釘を刺す。
だいたいこんなダメンズはどこまでもダメが相場なんですがギンはスズとの約束を守り夫を立て直し立派な一家を立てて最後まで谷崎家と交際を続けた。
後半のコマの縁談から最終章の懐かしい女中(娘)たちとの再会では涙が出て困りました。谷崎潤一郎で泣くう?
『細雪』は没落したとはいえ上流階級の「家族」の物語です。次女幸子(松子)の夫として登場する貞之助は谷崎の分身であり血縁があるわけではなく途中から参加した部外者だ。その上で貞之助の妻に対するその姉妹に対する心遣いは実に優しい。
また、そのなかでさりげなく夜中に堕胎した子を思い出して忍び泣く妻(松子)を描写していた。一説には中絶ではなく松子夫人の高齢出産を危ぶむ医師からの勧めで、松子夫人を谷崎が庇う意図からだったともあります。

谷崎の家族にはお春どん(ハツ)や『台所太平記』を彩る様々な女中さんがいた。この一連の作品をファミリードラマとしましたが。そこには血縁ではない擬似家族という日本特有の「家族主義」があると思う。封建的とか東アジア的とか血縁ではない、日本特有の文化だ。
谷崎潤一郎を耽美主義の変態スケベ極道作家と揶揄する人もいる。私もその1人でした。でも今度という今度は谷崎に泣かされて思いしらされたみたいです。
それはこの作品最大のジョーカーたるユリに対しても、そのユリの顛末でさえも気を配っている。あの『細雪』のトラブルメーカー妙子にも最後の最後、赦しの福音を(読者に対しても)もたらしたように。。なんか壺井栄の『二十四の瞳』ようだったなあ。そう谷崎にとって彼女たちは教え子生徒であって娘みたいな存在だったんですよね。
『細雪』は『台所太平記』とセットで堪能することをオススメします。