あかんたれブルース

継続はチカラかな

リアリティーの暴風雨『奴らが哭くまえに』私は「ハム」に濡れる。

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 見れば見たモノを(アウトロー編)「ハム」

 結局、私が本や映画で最重要にしている要因はリアリティーの有無のようです。
 その意味でその「食」というものは現実的な要素なのでしょう。
 だから、ちょっとした誇張にも反応してしまうようです。
 今回はそのなかでもマイ最高傑作を御紹介いたします。

 黄民基(ファン・ミンギ)『奴らが哭くまえに』
 サブタイトルに「猪飼野少年愚連隊」とあります。幻冬舎アウトロー文庫
 
 昭和30年代の大阪が舞台です。ちょうど明友会事件の頃です。
 山口組が戦後これほどに巨大化した理由に在日愚連隊組織の吸収があげられるでしょう。
 富士会、南道会や殺しの集団「柳川組」もそれにあたります。
 明友会という組織もその傘下に入るのですがそのプロセスとして夜桜銀次などが
 活躍したといわれる「明友会事件」という大抗争がありました。

 この本の主人公たちはそれに参加するにはいささか若すぎるのですが、
 在日朝鮮部落に棲む少年たちと日本の少年たちの貧しさの共有は胸を熱くさせます。
 足立区にも「本木連合」という暴走族があって、こちらは本木と西新井の在日と日本人の集い。
 当時喧嘩専門で一世を風靡した「極悪」に果敢に挑戦した「扇橋決戦」はいずれまた紹介します。
 青少年たちに本当は国とか民族とかの差別はないのかもしれません。

 この本では朝鮮部落に遊びにいった少年がご飯を御馳走になって
 そのキムチに魅了され、家に帰って母親に
 「ウチでもチムチ(原文ママ)を漬けんかい」という台詞にまず痺れます。
 貧しさのなかに輝くような珠玉の現実有り。

 そして、ハム。
 私たち世代はハムとかソーセージに対して特別の思い入れがあります。
 彼らも同じです。そこには日本人も韓国人も朝鮮人もありません。

 登場人物の親類のおじさんが船員でお土産にハムを持ってきてくれた。
 皆、それを羨ましがる。そして、船員になると志す。
 けれども、彼はしばらくすると家族と共に北朝鮮へ引き上げていきます。
 「北に行くと毎日ハムが食べられると」と言って。
 仲間たちは別れの寂しさと同様に毎日ハムが食べられる彼を羨ましがる。
 北朝鮮は地上の楽園として宣伝されていたのですね。

 宮本輝の作品にも北朝鮮への引き揚げ者との交流と別れを描く作品がいくつかありますが、
 この作品のハムほど、私の胸を締めつけたものはありませんでした。

 貧しさは確かに懐かしくもあり、想い出になれば輝きもしますが、同時に悲しいものです。

 そして、物語は明友会事件発生から彼らが少年という時代に終止符を打つと
 唐突に「牛乳」という食品によって幕を降ろす。

 キムチ、ハム、牛乳。
 まじめに、素晴らしい作品です。