あかんたれブルース

継続はチカラかな

寡黙な彫像のような男

海馬(2)

 健はデザイン学校時代の友達でした。
 こういった専門学校には年齢が上の級友たちが多くいます。
 
 なかでも健は年輩に見えて、私は四十代かと思いました。苦労人なんだなあと。
 寡黙で、どことなく、高倉健に似てる。声も似てた。
 私は、最初から敬語を使い、「さん」付けでお呼びしたものです。

 次第に、彼のくちからポツリポツリと身の上が語られていきます。

 山梨から通っているそうです。片道2時間半。
 入学前は染め物をやっていたとか。ええ?学校で?

 「あのお、、、。健さんって、失礼ですが、お幾つなんですか?」

 「俺か、十八だ。」

 「・・・」

 バカ野郎!俺と同じ歳じゃねえか。ボカン

 半月の低姿勢をこの一発のビンタで発散させて私たちはタメの友達になります。
 アルバイトもよく一緒にやりました。(インテリア会社の内装が多かった)
 なぜかどこからかバイトの話を持ってきます。奴はさばけたタイプではなったのに。

 一度、健がネクタイのデザインのバイトをしている図案を目撃しました。
 「こんなネクタイ誰が締めるの?」 健には才能がありません(涙)。
 
 「おい、健。この間のネクタイどうなった?」「ああ、あれはクビだ」

 健は頭が悪い。でも性格はおっとりしていて好人物でした。
 一度、恋をして。
 「馬太郎、俺は恋をしてしまったよ」と告白され私の方が赤面しましたよ。
 それで、仲介の労をとったところ、ふざけるな。と相手と相手の友人に怒られました。

 そういう人物なのです。

 二年になると、健が学校へ来る回数が減ります。
 実入りのいい、居酒屋のバイトに替えたのが理由。
 そのうち、来なくなっちゃった。
 私は5000円払ってギリギリ卒業しましたが、健の姿はありませんでした。

 それから、数年後、
 渋谷の道玄坂の中程に「まるはち」という居酒屋がありまして、
 ここでオーダーを注文にきた店員と私は見つめあってしまいます。
 健でした。
 二人は2分ぐらいは言葉を失っていたでしょうね。

 「おい、健、何処にいってたんだよ」

 「俺か、俺はここで働いている」

 相変わらず、ピント外れの答えです。

 店が引けたあとにスクランブル交差点の「マイアミ」で会う約束で店をでます。

 健は30分遅れて来ましたかね。

 何を語ったのかもう憶えていません。
 水仕事で荒れた奴の手だけが印象に残っています。

 それから、健との付き合いが復活するかと思ったのですが、
 お互いの仕事の関係で、なかなか会うまでにいきません。

 数年後、店長になったんだと聞きます。おめでとう。
 フィリピンからお嫁さんをもらったと聞きます。お、おめでとう。

 そして、しばらく経って、音信が途絶えてしまった。



 いまでも渋谷あたりの居酒屋に入ると健の姿を探します。

 健、黙ってると結構格好良かったよ。