あかんたれブルース

継続はチカラかな

文豪の教え子

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いよいよ病を重くする子規でしたが、
俳句短歌の固定概念をひっくりかえす意欲だけはますます旺盛です。

その聞き役が夏目漱石であり、この頃は
松山で愛媛県尋常中学教師から熊本の五高で教鞭をとっていた。
この頃の子規を病苦から鬱に陥っていた指摘するものもありますが、
どうでしょう?
それよりも、聞き役の漱石がこの後英国留学で鬱になる事実のほうが
興味深く感じます。

さて、余談の余談。
漱石が松山で教師をしていたことを題材にして生まれたのが
名作『坊っちゃん』です。

この時の生徒に桜井忠温君という生徒がいて、後に軍人になります。
桜井君は第十一師団の中隊長として旅順要塞攻略に参加します。

この第一回総攻撃で桜井君はロシア軍の機銃掃射を浴びて重症を負い、
意識不明の仮死状態になる。

遺体として火葬される寸前に息を吹き返した!

桜井君は入院中にこの悲惨な体験談をまとめます。

タイトルは『肉弾』。

これが近代戦記の先駆けとなり、
明治三十九年に乃木大将の題字で出版されると、大ベストセラーとなる。
海外でも十六カ国で翻訳、出版されたのです。

生身の人間が近代要塞に「肉弾」としてぶつかる。
旅順の戦いをこれほどまでに的確に表した言葉はないですよね。

桜井君の『肉弾』は国内外でも高い評価を得て、明治天皇からも
特別拝謁の栄誉に授かります。ところが、
陸軍上層部の逆鱗に触れる!

それから七年、桜井君は執筆活動中止を余儀なくされます。

それを当時陸軍軍務局長だった田中義一に励まされ、
再び、ペンを執り、続編の『銃後』などを著すのですが、どころが、
太平洋戦争の敗戦・・・
今度は戦犯扱いを受けてしまいます。

文豪夏目漱石の教え子は軍人になって九死に一生を得て、
戦争の悲惨を訴え、評価され、封印され、復活し、
そして、戦犯の汚名を受けたのでした。



坂の上の雲』文庫第二巻 第十五章「子規庵」

わたしの最新作『肉布団』もよろしく。
前作の『肉団子』『肉まん』と三部作として御賞味ください。