あかんたれブルース

継続はチカラかな

みゆき嬢のララバイ(6)失ってしまったもの青春の光と影

雨もあがったことだし おまえの家でも ふっと たずねて みたくなった
けれど おまえの家は なんだか どこかが しばらく 見ないまに 変わったみたい
前には とても おまえが聞かなかった 音楽が 投げつけるみたいに 鳴り続けていたし
何より ドアを あける おまえが なんだかと
言いかけて おまえもね と 言われそうで 黙り込んだ
昔 飼っていた猫は 黒猫じゃ なかったね 髪型も そんなじゃ なかったね
それは それなりに 多分 似合ってるんだろうけど
なんだか 前のほうが と 言いかけて とめた
言いだせないことを 聞きだせもせずに 二人とも 黙って
お湯の沸く 青い火をみている
何を飲むかと ぽつり お前は たずねる 喫茶店に来てる気は ないさ

ねえ 昔よく聴いた あいつの新しいレコードがと
わざと 明るく きり出したとき おまえの涙をみる
ギターは やめたんだ 食って いけないもんな と それきり 火を見ている

部屋の隅には 黒い革靴がひとつ くたびれて お先に と 休んでる
お湯のやかんが わめきたてるのを ああと 気がついて
おまえは 笑ったような 顔になる 
なにげなく タンスに たてかけた ギターを
あたしは ふと見つめて 思わず思わず 目をそむける
あの頃の おまえのギターは いつでも こんなに 磨いては なかったよね

あんまり ゆっくりも してはいられないんだ 今度 また来るからと おまえの目を見ずに言うと
そうか いつでも 来てくれよと そのとき おまえは 昔の顔だった

コートの衿を立てて あたしは仕事場へ向かう 指先も 衿もとも 冷たい
今夜は どんなに メイジャーの歌を弾いても しめっぽい 音を ギターは 出すだろう


 若い頃はすべてが永遠に思えました。すべてが
 そして、今ほど怖いものも少なかったようにも思えます。
 失ったものは沢山あります。
 今はそれよりも多くを知った気でいますが、足取りは探るように密やかです。
 けれども確実に一歩踏み出すように心がけます。
 失ったもののためにも。

 みゆき嬢の魅力のひとつに生ギターの弾き語りがあります。
 その意味で、この曲は「彼女の生き方」と双璧の名曲。
 気怠いみゆき節が青春の旅の重さを想いおこさせます。
 私もわけあって「ギターはやめたんだ」のですが、
 今夜あたり千切れた細い弦をつなぎ合わせて
 あの頃の曲を弾いてみましょうか。
 しめっぽい音をだすだろうか、、、。


 シトシト ピッチャン
 ア、ア、アーア、ア、ア
 大五郎、まだあ、みーいっつ