鰹の塩辛「酒盗」の話が出たので、少し話ます。
ウンチクではなくフィールドワークというか体験談みたいなものです。
私は港町で育ちました。
森進一の「港町ブルース」五番の歌詞の最後の港です。
鰹節と台風で有名でした。
海岸近くの地域には34軒に一軒の割合で鰹節製造工場があります。
(慢性的な不景気で多くの工場が閉鎖されたそうです)
これを「茹小屋」[idegoya]と発音します。(すべて語尾は下げます)
町はいつも鰹の生臭い臭いが充満していて、労音のコンサートで入港した中島みゆきに
「その臭いを指摘」された恥ずかしい想い出があります。
町のドブや溝はいつも鰹の血で真っ赤です。まるで地獄のようです。
ときどきソーメンも流れています。この地では味噌汁には必ずソーメンを入れます。
それ以外に鰹の骨やヘチマやナスや何でもいれます。汁なのに吸えません。
クラスの3分の1は「茹小屋」の子供です。
小学3年生のときに中町の緒方トシヤ君の家に遊びに誘いにいったら、
踏み台に乗って彼は鰹を三枚におろしていました。(トシヤ君はべそ)
私に気づくと彼の母親が「トシヤアマンイソガッカデマダキヤイ!」と叫びます。
大きな包丁と大きな鰹と小さなとしや君が今も印象に残っています。(彼は泣いてました)
鰹はだいたい鰹節にされます。内臓は塩辛にされる。これが「酒盗」ですね。
けれども塩辛は内臓だけではなく頭とかカマなども塩辛にされます。
男衆は内臓部分の塩辛を好み、女衆はこのカマの部分にカブリつくそうです。
酒盗と言われることから酒の肴の定番と思われがちですが現地の部族は副食として、
主食のサツマイモとセットで食べます。
「カイモ(唐芋・薩摩芋)&ショーカラ(鰹の塩辛・酒盗)」は定番家庭料理として
といっても戦後の自虐的貧乏自慢話として健在です。
ということで、現在市販されているのは内臓部分のモノです。
母の話ではカマの塩辛には身(肉)が付いていて超美味いのだそうです。
幼い時に私も食べましたが、、、別に、さほどの印象はありません。
これらは食品加工場で作られる輸出商品ではなく、
各「茹小屋」で廃物利用として作られ、だいたい土曜日の昼食。マック感覚ですね。
その他に「チンコ」「ハイホネ」「コ」「ビンタサネ」「ハラゴ」などがあります。
【チンコ】心臓。【ハイホネ】肋骨の扇状の薄い骨の間にある身を食します。
【コ】鮭でいえばタラコですね。クリーム色です。【ビンタサネ】アラです。
【ハラゴ】腹部の三角筋です。煮ても焼いても絶品です。(二番目の写真ね)
近年は冷凍技術が進歩して刺身でも食べるそうです。
現地人は中に蛆のような虫があるので箸で避けて食べます。(都会の人は喜んで丸ごと)