あかんたれブルース

継続はチカラかな

老獪なヤメ検弁護士とバンカー、そして黒いジャガーの男

踊る理事会(2)



 というわけで、秋の総会は紛糾して閉会しましたすが、各理事は怒りと戸惑いを隠せません。
 ただ一人、私の隣の理事長が悄然と俯いています。
 (だから前日にシュミレーションしておこうといったのに、、、。)

 そのとき、突然。「というわけで馬太郎さん、私やめさせてもらいます」と言う声。

 声の主は理事の石田さん。彼は前期の副理事長です。
 理事会の任期は1年ですが、経験者が2人残って平理事でサポートする仕組みになっています。
 彼は半官半民のバンカーで几帳面な正確というか融通の利かない正義派です。

 老人の裏切り行為ともいうべき行動に一番ショックを受けていたのは彼だったのですね。
 ここで老人の名を仮に「広末」としておきましょう。
 彼なりにこの広末を尊敬していたのでしょうが、それが幻覚だったことに、今気付く。
 広末への不信感が当理事会で決定的になった以上、彼の立場もないのでしょう。

 そういって石田さんは出口に駆けだしてしきます。
 「ちょっと!待ってよ石田さん」
 私は跳んで行って彼を連れ戻し、「別れる切りれるは芸者の時に言う言葉」
 とかなんとか説得して愛をつなぎ止めたのです。なんのこっちゃ。
 (相性は合いませんが彼がいないと困ってしまう!)

 広末の奇行は噂となって、この日中に私たちの地域周辺住民に広がったそうです。(凄い)
 これじゃあ、マンションの付加価値が彼の存在で目減りしていくなあ。
 けれども、いいこともありました。
 それは、具体的な危機感というか共通の敵が存在することで、
 理事会9名の結束が固まったということです。

 取り敢えず、この若い理事長の負担を軽減させないといけません。
 9名中、彼が一番若く、私は下から4番目。後の4名は爺。
 若さで下から二番目の浅井さんに議事録担当をお願いしました。彼は了承。
 私は理事会だよりの広報担当です。この任期中、住民へのコンセンサスの取り付けや
 情報開示の案件が多く月一回か二回は理事会便りを発行した計算になります。
 結局、動くのは若手が中心です。当時私も40歳でしたから若手です。

 それはさておき、地下ピットの湧水問題。
 当理事会には建設関連のメンバーはいません。
 住民の中で関係する人から参考意見を聞くというアイデアも大した効果はありませんでした。

 そんなある晩、帰宅したエレベーターで武田さんと一緒になります。
 「やあ、馬太郎さん」と彼は理事会の話になって自分の階まで私をのせていきました。
 この武田さんも理事のひとりなのですが、ゴルフとかなんとかで出席率はよくない。
 それでも、広末と私の漫才をみて、また、不動産会社のと問題で俄然興味が湧いてきたとか。

 長身で田舎の千葉真一といったカジュアル親爺。土建屋の社長か?気質ではありません。
 武田さんは某スクープ雑誌を制作している編プロの経営者であること。
 その関係で訴訟事は日常茶飯事で顧問弁護士も3人ほど契約していること。
 年齢は57か8ぐらいでしょうか。おいおい、金のブレスレットするなよ。
 黒いジャガーに乗っていたなあ。裁判が目的じゃあないんだけど、、、。

 そして、
 「馬太郎さんが本気で動くなら、僕は全面的に協力しよう」と言い出します。

 う~ん。。。どうしたものか。。。
 この人、真面目な話をしているのに目が笑っている。
 (笑っているのに目が笑っていない人以上に厄介なんだよね)
 金持ちの暇潰しとかじゃあ困るしなあ。
 どうする? 続く