あかんたれブルース

継続はチカラかな

向が丘遊園で統●教会に捕まって

 あなたは、死後の世界を信じますか?

 今から27年前、季節は初春。小田急線向が丘遊園駅前で、
 若き馬太郎は友人のアパートに麻雀をやりに、
 ぽか~ん として道を歩いていたらこう声をかけられました。
 あまりにも唐突で出会い頭だったその時、軽率にも
 「転生輪廻ですか、、、。」と答えてしまったのが発端です。
 そして、住所と名前を教えてしまった。

 徹夜麻雀明けで小田急線経堂駅の自分のアパートで寝ていた翌日の昼過ぎ。
 見知らぬ男が訪ねてきます。この人が倉田さん。
 倉田さんは昨日、向が丘遊園で私に声をかけた人で、
 昨夜も訪ねてきたけど「いらっしゃいませんでしたね」と微笑みます。(麻雀だって言ってたろ!
 彼は某統●教会の信者。私はこの時、そんな教団なんてまったく知らない。27年前ですから。

 倉田さんはそれから毎晩訪ねて来るようになりました。
 長野出身で学校の先生だったそうです。年の頃は30歳前でしょうか?
 早朝から高井戸のパン工場で働き、空き時間を使って宗教活動をしているそうです。

 私は就職も決まって卒業制作に追わている日々でした。
 B全ボード2枚を映画『アニマルハウス』のポスターイメージをベースに
 ハリウッドの映画スター20名を埋め込もうという野心作の制作中。
 倉田さんは毎晩やって来ては作業中の私の傍らで優しく語りかけてきます。
 「馬太郎兄は悩みはないですか?」と。私は私で
 「そのケイ(兄)とはなんですか?」と質問に質問で問い返していきます。
 彼は私に入信して欲しいようですが、私にはさっぱりその意欲がありません。
 最初は少し鬱陶しかったのですが、毎晩やって来ると情が移っていって、
 たまに来ない晩は「どうしたんだろう」と気を揉んだり。
 そのうち、ケーキを買って待ってたりするから人間って不思議なものです。

 ところが、そのうち、私の顔が青ざめ、脂汗が滴りだし、焦りの表情へと変わります。
 倉田さんの質問も上の空。
 卒業制作の期日が目前に迫っているのに完成の見込みがたたない。
 下絵が出来たところで安心したのが間違いだった。B全ボード2枚は思ったより広いのです。
 塗っても塗っても塗り足らない。ああ、ちょっと細かくし過ぎてしまった。が、後の祭り。
 私の焦りを彼も察したんでしょうね。

 「馬太郎さん、何か手伝いましょうか?」

 な、なに? 君、まだ居たのか! 地獄で仏じゃない統●教会。
 倉田さん、じゃあ、このマスキングテープ貼って。そうそう上手い上手い。
 そしてカッターで切る。そうそう、軽くよ。軽く。こら、力を入れると傷つくだろうが!
 はい、今度はこっち。そっしたらあっち。

 徹夜で手伝わせてしまった。彼は明け方パン工場に向かいました。
 有り難う、倉田さん。あなたのおかげで助かったよ。

 翌々日の晩、倉田さんが訪ねて来ました。
 部屋に入って来て、彼は凍りつきます。私の卒業生制作はまだ完成していなかったのです。
 「う、馬太郎さん! 締め切りは今日じゃなかったのですか?」

 う~ん。過ぎちゃいましたねぇ。どうしよう。まあ、完成しないことには提出できないし。
 想定外の情況に愕然となった倉田さんがマスキングテープを貼り始めます。
 偉い人だ。何も指示しないのに自分から行動できる。なかなかいないよね。(こら!
 明け方、ふと気づくと彼はキャンバスの横で寝息をたてていました。
 毛布を掛けてあげて3時間ぐらいたったでしょうか。2日遅れの朝8時過ぎ、ようやく完成。
 彼はまだ目覚めません。よっぽど疲れていたんでしょうね。パン屋の仕事も大変だ。(おい!
 「カギはしていかなくても大丈夫です。獲られるものはありませんから」
 と置き手紙を置いてアパートをでました。(なんか変だなあ

 遅れたからといって学校の事務員は5000円も取りやがった。
 クラスメートは私が卒制が出来なくなくて失踪したと噂していたそうです。
 しかし、あのときの5000円は痛かったなあ。
 まあ、これで卒業も出来ることだし、それもこれも倉田さんのおかげです。
 私は倉田さんに大きな借りを作ってしまった。

 その借りを返す機会はすぐ訪れました。
 倉田さんがおどおどしながら、私に統●教会の二泊三日の修練会に参加して欲しいと。はは
 
 さあ、どうする。