前略おふくろ様(続きの3)
このドラマの重要なテーマに年老いた母を思うサブちゃんのジレンマがあります。
サブちゃんは末っ子でまだ歳も若く、修行の身で半人前です。
上京しての一人暮らし、孤独。そして気がかりな故郷の母のこと。
その思いを「前略、おふくろ様」として綴っていきます。
地方出身者ならば、みな経験するその思いは同じではないでしょうか。
若い頃は、自分の非力を呪うものです。
はやく時間が進んで本当に自立できる大人になりたいと願います。
年齢の積み重ねの時間が遅いと、苛立ちます。
兄弟には兄弟の事情があることも理解はできても、自分より遙かに大人である人々の無力を嘆く。
そして、全てを自分の手で成そうとする。途端に現実というものに押しつぶされそうになる。
サブちゃんの自立は結婚によって始まります。
相手はかすみちゃんではなく、学生時代の後輩タヌコ。
風吹ジュンがしっとりと演じました。
「アイツは拝めばヤラセてくれる。お前も一回ヤラセてもらえ」尾藤イサオが卑屈に好演。
そう、彼女は誰とでも寝る女という噂があるのです。
再会をはたすサブちゃんとタヌコとの夜の喫茶店のシーン。
チェイサーに十円玉を沈めて平面張力で満たされる水に、また一枚のコインを沈める。
輝く琥珀の映像にそのゲームに夢中になる二人。囁くタヌコ。
タヌコはワタシハ、ワタシハと囁く。それを観ているもう一人の私馬太郎は気が遠くなる。
「サブちゃん!はやくタヌコを盗め、いますぐ、ああ、煮え切らん男じゃね。もう」
と手に汗握る私。おバカですね。
とにかく、ラストで、ようやくタヌコを人生のパートナーとするサブちゃん。
よかった。
それは新たな出発でもあります。
放送第一回目とはひと味もふた味も成長した彼の背中が眩しい。
サブちゃんの後ろ姿が雑踏の中に小さくなっていきます。