あかんたれブルース

継続はチカラかな

児玉大将一世の熱弁に泣く

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児玉源太郎の本質(2)




「オイ桂、我々の同盟秘密結社は、

 修理の力量なくいたずらに私威私権を弄して国家の大事を誤る元老を排斥する同盟である。

 君も僕も元老に対する恩義のために、いま、目前に横たわる日本の大事を無視する事はできまい。

 政治が何だ。政治とは、いい加減の事を言い実行して、

 その日暮らしに目先の私利私功をむさぼる事ではないか。

 いま、君が大命を奉じてやるべき事業とは、ソンナ事ではない。

 君は陸軍大将であること忘れるな。軍人であることを忘れるな。

 陛下も満天下の人民も、君が陸軍大将であることを知って、嘱望しているのだ。

 いま、わが国の国家的状況は、明治政府樹立以来の未曾有の難局なのだ。

 ロシアは欧州政略に失敗し、国を挙げてバルカン半島への南下を企てたが、

 これすべてを欧州諸国の老獪な外交戦略によって妨げられた。(中略)

 ロシアは、如何にしても世界の大海に首を出し、国家の呼吸を求めなければならない。

 そこで断然、国力を賭けて三千キロの大鉄道をシベリアに敷く事を計画し、

 その野心を東洋に向けているのだ。

 まず、巨大なる犠牲を清国に払って、先年より露清機密条約を結んだ。

 わが国からの幾多の警告を無視して、一方的に清国のみの了承を求め、

 世界も驚愕する二億六千ルーブルの巨費を投じてシベリア鉄道に着手している。

 その線路が「ハルビン」まで達しようとするいま、突如としてロシアは露清秘密条約を発表し、

 「ブランチ・ライン」を南満州に突出させ、奉天、遼陽、金州、南山、大連、旅順に起工させた。

 そして、旅順港には巨大な戦艦十数隻を入れ、大要塞に仕立て上げている。

 さらに、日本の心臓部ともいうべき朝鮮の馬山浦を抑え、わが国の存在を脅威しているではないか。

 この状況にあって、日本を背負うべき役割を担う元老伊藤博文は、

 明治三十一年に大隈、板垣の政党に苦しめられる内政上の遺恨を含んで自ら政党を組織し、

 元老大隈、板垣の二首領は私利私欲を根本としたる劣等な喧嘩を演出し、

 日本の政治に三文の価値なき事を満天下に暴露して倒壊し、後任の元老山県はなんの定見もなく、

 周囲の言に迷妄して、政治面に一寸の善功を挙げることはなかった。

 そして、東学党の乱に出兵したことを伊藤の政党に攻撃され、身動き取れなくなると、

 それを幸いとして無意味に政権を放棄し、それを奪った元老伊藤は自政党を率いて大権を握ったが、

 わが国内外の現象を理解せずして、いたずらに他の元老どもと私権争奪の闘争を演出し、

 組閣一ヶ月も立たざるに内閣維持を保てず、

 その無能その無価値を天下万民に見透かされてしまった。

 これで、国家政治になんの望み託せ得るであろうか。

 しかるに、彼ら元老たちはなおも自身の無能を自覚することはなく、再び元老会議を起こして、

 元老井上馨を推薦し、それによって自己の責任を逃れようと企て、天皇陛下の聖明を汚し奉り、

 国民の希望を亡失させた。

 ここに井上の苦悩煩悶、その効果を見ざるは、天下人心が元老政治に愛想を尽かした証拠である。

 この時にあって、君が軍人として、陸軍大将として、

 この重責を負うべき大命を奉承せんとするのは、

 実に我々軍人として、盲亀の浮木優曇華の華に遭遇したるの一大好機である。

 桂よ、君は元老を見るべからず、陛下の御信念を拝察し奉れ、

 政党を見るべからず、ロシアの暴慢を見よ、

 内政の消長を見るべからず、日本の安危存亡を打算せよ。

 ひとたび、命を奉じて大権を把握すると同時に、まず第一に、ロシアの横っ面を殴れ。

 果たして、然れば、あの元老ども一斉に「俺は知らぬ俺は知らぬ」と言って、

 われ先に下駄を持って裏木戸より逃げ出すこと請け合いである。

 したがって、我々はもう辛抱して元老を見ることはない。

 桂よ、国家は興亡を一大条件として存立する物である。

 何時でも興ったり滅びたりする物である。故にその興り方と亡び方が我々の責任である。

 今日は、嫌でも応でも、この興亡を決せなければならぬ時だ。

 少なくとも君と僕は、今からその責任の前哨に立たねばならない。

 ここに至って君は、堂々と対ロシアの政策を引っさげて議会に臨むべし、

 もし議員から一言の批議をこの事件にさす挟む者あらば、日本の安危にはかえられぬ事を大声して、

 一撃のもとに議会を解散して、これを粉砕すべし。

 ここに始めて君は、日本の安危を一肩に担う社稷の臣たる出発点に立ち得るのである。

 僕も軍人だぞ。

 君がこの際、身心を挙げて、陛下の御馬前に進み、この国難に戦死する決心をもってするならば、

 僕はこの日露開戦の前にこの身命をもって、君がために戦死し、以て秋毫の悔いを遺さぬであろう。

 これ即ち、僕がこの杉山と約束した、秘密結社の大趣旨である。

 今、君もこの秘密結社に参加した以上は、

 即ち元老を見るな、政党を見るな、議会を見るな、世論を見るな。

 ただ見るところの物は、陛下と、国家と、敵国だけだ・・・さあ、どうだ。

 やるのか、やらぬのか、・・・」