あかんたれブルース

継続はチカラかな

美咲からの二度目の電話

 前回、不用意に彼女の名前を口に出してしまったことを
 私は後悔していたのですが(あの日は電話切られてしまった)

 昨夜、美咲からの二度目の電話がありました。

 なぜか受話器を取った後の沈黙で、彼女だと確信しました。

 「どこからかけているんだ」

 私の問いかけに、
 彼女は暫く躊躇したようです。
 ・・・・
 そして、「駅前の公園」という意外な答えが返ってきました。

 私はもう一度確認すると、妻に煙草を買いに行くといって外に出ました。

 駅まで歩いて7分。駆け足なら4、5分の距離です。

 トラックのあるその大きな公園の片隅に
 砂場とブランコと滑り台のワンセットが設置された小さな幼児用スペースがあります。

 街灯の光がそこだけをスポットライトのように照らしています。

 そのブランコに白いスプリングコートを羽織った女性がいる。

 背を向けているので顔は分かりません。

 昨夜は寒かったので少し震えてしまいました。
 私の胸の動悸は走って来ただけの理由ではない。

 立ち止まってしまった後、ゆっくりと近づいて、彼女のすぐ後ろまで。

 「随分はやかったわね」

 振り向いたのは、確かに美咲でした。

 私は無言で隣のブランコに腰をおろしまします。

 沈黙と鼓動の音。私は無意識にポケットから煙草を探す。すると、

 「はい」と美咲が煙草を差し出します。
 封は切っていますが手つかずのそれは私の吸っている銘柄と同じものでした。
 手渡されたケースから一本取り出すと美咲はライターを差し向けて火を灯します。

 私は彼女の手からそのライターを奪うと、
 「そんなことするもんじゃないよ」と不機嫌に、自分で火を着けます。

 「煙草吸うのか?」

 「吸わないわよ。煙草切らして出てきたんでしょう」

 「あっ、ああ」

 「でも、いいの? お医者様からお酒も煙草もやめるように言われてるんでしょう」

 「なんでも知ってるんだな」

 「なんでもお見通しですよ」

 戯けるようにこたえる美咲は大きくブランコを蹴ります。

 その軋む音が宵闇の小さな公園に響く。

 白くほっそりとした足、白いローヒール。肩まで伸びたストレートヘアーが揺れる。

 「ウチに来いよ」

 「う~ん、今夜は、遠慮しとこうかな」

 「なぜ?」

 「私が突然お邪魔したらおかあさん取り乱しちゃうわよ」

 「そんなことないさ。喜ぶにきまってるじゃないか」

 「そうかもね。でも今夜はやめとく、、、。それよりKちゃん元気?」

 「ああ、元気だよ。あいつも喜ぶよ」

 「うん、今度ね」

 「今度?」

 「今日はおとうさんと会えただけでいいの。幸せってね、小出しに味わうものよ」

 「・・・美咲、いくつになった?」

 「21。もうすぐ22歳だけど。自分の娘の歳を忘れたの?」

 「いや、そんなことはない。ちゃんと分かっているさ。聞いてみただけだよ」

 そう、美咲は私の娘でした。


 つづく