かなりやの館(2)
「馬太郎君、一度東山と飲んでみなよ。面白いぞ」
当時、私は求人系の出版社が発行するPR誌の仕事をしていました。
ニヤニヤしながら、こう言ったのが、それの制作会社の社長。
「面白いって、そんな酒飲めるんですか?」(酒飲めることが面白いと考えてる若き頃の私
「いや、酒はそんなに飲めないけど酔っぱらうと面白いぜ。変身するんだ」
「変身って? 酒癖悪いの嫌いですよ」
「いや、そんなことないよ。面白いから一度飲んでみな」(これは専務の台詞
普段真面目な専務も話しに入ってきて、またニヤニヤ。
でも、なんか嫌な言い方、、、。
飲んで変身、、、。面白いねえ、、、。
まあ、クライアントとしては一次だから酒飲むのはかまわないけれど、、、。
東山さんはすごく真面目な人で、そのPR誌の責任者でした。
外部委託していましたが、一応編集長の肩書き。
でもどちらかというと苦労人の営業マンです。
私より3歳年長でしたが、腰の低い、汗っかきの人でした。
それから数ヶ月経って、その機会は訪れました。
私の事務所に大至急の直しを持ってきた彼、作業が終了した後に私は誘ってみたのです。
「東山さん、焼き肉好き?」と。
お酒があんまり飲めないと聞いたので焼き肉をセットにしてみました。
返事は、
「はい、大好きです!」 事務所の近くの焼き肉屋に行ったよ。
他愛もない会話、生ビールの中ジョッキ二杯目を飲み終えて三杯目が運ばれたあたりでしたね。
東山さんは変身しました。
それまで堅苦しい敬語と礼儀正しい愚直者を絵に描いたような人だったのに、、、。
突然、意味不明の笑み。と。そして、声が2オクターブほど高くなって
「それでね~ぇ」と女性(オカマ)になっている。まさに変身でした。
マリリンというそうです。
多重人格なのでしょうか。
マリリンの写真も見せてもらいました。
金髪で赤いタンクトップと黒のミニ。どこかのライブハウスで踊っています。
赤いライトに映し出されて、スージー・クワトロかと思った。綺麗でした。
それより、驚いたのは彼の鞄。そんな写真や何かが袋や封筒に入って沢山あるようです。
マリリンの近況写真を探すのに苦労してました。「あっ、これは違う」とか
家に置いてるとまずいものが多くて自分の鞄に入れて持ち歩いているそうです。
「それで、遂に買ったのよ!」
「何をですか?」
「ウエディング・ド・レ・ス」
「へ?」
彼女は白いウエディング・ドレスを通販で購入したそうです。中古ね。
それを着て、松田聖子の歌を熱唱するのだそうです。カラオケで
悩みは、それを仕事の接待でやると失敗してしまうケースが多いとか
(そりゃそうだろうね)
で、彼曰く、前々から私の事が気に入っていた。
馬太郎さんは絶対に化粧映えするから一緒にお店に行きましょう。(?)
そして、私は「エリザベス」という名前をつけてもらいました。
「ベスですか!」
つづく