あかんたれブルース

継続はチカラかな

美咲の風の残り香

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 「今夜は寒いね」

 不意をつかれてしまった。
 美咲が私の背中に体をもたれかけてきて、囁きます。

 「でも、おとうさんの背中は温かいよ」

 この言葉に、私は急に不安になってしまいます。
 なんとなく彼女が泣き出すんじゃないかという不安です。
 なにか言葉を探さないと、、、。

 「美咲、背高いな。身長いくつある?」 これしか思いつかない(汗)。

 「55メートル」

 「それじゃあゴジラじゃないか」

 「ガオー! 襲う・・・!! 」 

 美咲が私の肩に噛みつく。つこうと、する。
 美咲が耳元で「私は泣かないよ」
 途端に今度は背を向ける。
 背中と背中が合わさってしまいます。ドキドキしまいた。

 「さっき、私の足みてたでしょ。エッチ」

 意外な一言に、私はまた言葉を失ってしまいます。

 「オバケに足が生えてて驚いた?」

 「そ、そんなこと・・・」

 「ふふふ、オバケにだって足はあるんだぞ」

 そして、美咲は私をすり抜けるようにクルッとターンを決めます。
 私の正面に立つ。
 コートの裾を両方の親指と中指でつまむんで、お辞儀をする。
 まるで舞踏会のシンデレラのようでした。
 
 もとの姿勢にもどして、

 「美咲は泣かないよ。涙を流すと、美咲は溶けてしまいます」

 「・・・」

 「だから私を泣かせていけません」

 「もちろんだとも。泣かしたりするもんか」

 「おとうさん、今度、飲みに連れていって」

 「今度? ああ、いいよ」

 すべてに戸惑っている私。

 「美咲、なんで伊藤なんて嘘をついたんだ?」

 そんな私に向かって、美咲は敬礼します。

 「それでは、○○(私の本当の苗字)美咲上等兵帰還致します。」

 「えっ、き、帰還って、どこに帰るんだ?」

 「コーポラス多磨霊園705号室、なんちゃって。 あっ、彗星!」

 美咲が指さすので、私はつられて振り返ってしまった。
 小学校の校舎に阻まれて夜空なんか見えない。彗星って?

 再び美咲の方を振り向くと、もうそこに彼女の姿はありません。

 私は、焦った。

 美咲を追いかけるように小さな公園から、トラックのある広い公園に走りました。

 しかし、どこにも美咲の姿はない。
 その時、柔らかい風が吹いてきて、私を包みました。
 そして、風は通りすぎていきます。
 美咲の香りがしました。