かなりやの館(番外-2)
数年後、突然に木曜日の彼女から電話がありました。
例の会社を辞めて細々とフリーで仕事をしているそうです。
看護婦(最近では看護師かな)の会員誌をやているので手伝って欲しいとのことでした。
久々の再会。
知人から彼女が退社した理由が例の社長からの執拗な干渉。自宅への電話攻勢。
今で言うとセクハラでしょうが。やってる本人にその意識がないので始末が悪い。
仕事の内容は誌面刷新リニューアルでしたが、相変わらず編集作業は上達してない(涙)。
大した仕事ではなかったけれど、月刊で定期モノになるそうなので親身にアドバイスもしました。
打ち合わせの後、道玄坂を二人で下って、109で食事をしました。
テーブルを挟んで面と向かうと、なにか気恥ずかしいものがあります。
食事をしながら彼女の話を聞きました。
小説を書いているそうです。
ああ、そうですか。気のない私。
その登場人物に馬太郎さんの名前を借用させて欲しいと言います。
どうぞ。御自由に。
不思議だったのは、話ながら彼女が自分の鼻を無意識に弄っている事でした。
揉んだり引っ張ったり、鼻の穴をおっぴろげています。花粉症か?何かのまじないじゃ?
その日、渋谷駅で別れてから二度と会っていません。
彼女はその直後に作家デビューを果たし、一躍有名人になってしまった。
あの看護婦の会員誌も話は立ち消えだったでしょうか。よく憶えていません。
ただ、あの鼻を弄くる癖はやめた方がいいと伝えられなかったのが心残りでした。
本屋や図書館に行くと彼女の作品がありますが、私は一度も読んでいない。
そういえば、私の名前が登場人物に使用されていると言ってましたね。
いったいどんなキャラにあてはめられたのか?
色事師?まさかね。紳士で通したもの。ホントだってば。
先日、『海猫』を観たら、原作に彼女の名が出ていました。
ああ、こういう作品を書くようになったのか、、、。
じゃあ、俺も『山猫』でも書こうかな。
馬太郎シスターズよ、覚悟しておきなさい(笑)。