昨日、私は野暮用があって乃木坂に行って来ました。
仕事の資料を探していたのですが、手間取ってしまって帰りは夕暮れになっていた。
地下鉄千代田線で家路に着きます。休日なので電車は空いていました。
入手した資料に目を通していると睡魔に襲われ、いつの間にか眠ってしまったようです。
「新お茶の水」の駅を過ぎた辺りに目が醒めます。
私のいる車両には誰もいない。
ふと正面の窓ガラスに目を移すと、黒い硝子板に私と、美咲が映っている。
美咲!?
横を見ると美咲がうなだれてきます。
あの時の香りがする。
「美咲」
「お仕事ご苦労さま。すこし、お疲れのようネ」
「ずっとそこにいたのか?」
「いたわよ。ず~っと、此処に」
「気付かなかったよ。どこから乗って来たんだい」
美咲はそれには答えず、私に体をあずけるように私を見つめています。
この間、羽織っていた白いスプリングコートは膝に置かれている。
美咲と私の姿が向かいの窓硝子に映っています。
「ねえ、飲みに連れて行ってくれるっていったわよね」
「うん」
「いまから連れていって」
私と美咲は、次の湯島の駅で下車しました。
ホームに降りると、美咲はコートを羽織って私の後を追う。
コツ、コツ、コツ、と、彼女のヒールの音が木霊します。
美咲は追いつくと私の左腕にしがみつきました。
外に出ると風は冷たく、少し肌寒い夜に変わっていました。
つづく
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