あかんたれブルース

継続はチカラかな

さようならボクの夢と環の歌声

 歌手を目指したことがありました。
 また、唐突に。と思うでしょうが、私たち地方出身者は上京自体が一か八かなので、
 このまま埋もれてしまう前にの乾坤一擲は日常茶飯事です。(ホントか?

 19歳の頃、このまま就職してもうだつがあがらないと確信したので、
 ワンチャンス。駒沢のフォーク村を介してジョイントコンサートに参加したのです。

 そこで、環と出会いました。

 出場する4つのグループのうちの一人が彼女だった。
 とにかくもの凄いブスです。これまでの人生で出会った五本指に入る。
 それで「環」なんて言語道断の名前。なので強烈に記憶に残ったのかな。

 けれども、そのブスに形容詞を付けるなら、
 可憐で、気だての良い、知的で、たおやかな、ブスでした。

 私、こういうのに弱い。

 ヤバイと思いましたよ。だって私の上京のひとつの大きな目的は
 ファションモデルと結婚することだったわけですから、これは天の仕掛けた罠だと思った。

 けれども、私は彼女に惹かれていきます。

 決しておしゃべりではない。慎重に言葉を選んで話す彼女の囁きに耳を傾ける。
 居心地がいいのです。なんて血色の悪い歯茎。とは思っても魅了されていきます。
 自分が砂の城のように風の吹かれて崩れ落ちていくような。
 サラサラと。溶けるように。アイスコーヒーに落としたクリークのように。
 阿片を吸っているように。

 お互い、初めてのコンサート経験だけど頑張ろうと励まし合いました。
 実は帰りにお茶に誘ってるんですね。
 ブスには強い馬太郎。

 当日、私の前にステージに立った彼女のピアノの弾き語り。
 素敵でしたねえ。切々と歌いあげる不細工な女の彼氏への思いが胸にビシビシくる。
 ああ、環よ。君はメンクイなんだね(涙)。
 それでも、私は魅了されたのです。

 私のほうの人生一攫千金の夢はこの日儚く頓挫します。大失敗!
 それ以後、私はギターは弾きません。彼女とも会っていません。
 いや、正確には会えなかった。

 それから、一年ほど経ちましたかね。
 就職が決まって、髪を切りにいった時。なんかいちご白書みたいだぞ。
 小田急線・経堂すずらん通りの床屋のラジオから文化放送オリコンの年末総決算みたいな番組。
 どこかで聴いたような、記憶のある曲が流れています。
 「おまえねえ♪」 ああ、彼女の歌だ。

 本年度新人○○位○○「環」で○○でした。○は伏せ字ではなく忘れた。

 私は環という名と「おまえねえ♪」というフレーズしか憶えていません。

 なんか感慨深い、忸怩たる師走の寒空でしたねえ。
 私は歌手をあきらめて、デザイナーを目指します。
 あの統一協会の倉田さんが部屋を訪ねて来るのはこの頃です。
 道は長いな。


 誰か2007年マイナス27~8年頃に新人だった女性シンガーソングライターで
 環という女を知りませんか?
 別に会ってどうこうしようとは思いません。
 そういう女性がいたという話です。私の青春の想い出さ。