織江の後ろ姿(2)
彼女が初めて私の事務所を訪れたときに、不自然な足の運びが目に入った。
打ち合わせ室に通された彼女はすでに席に着いていました。
三十路過ぎて、岡山から転職で上京してきたそうです。
少し、顎がしゃくれた感じでクセのある顔。
とても素直な姿勢で、好感がもてた。
彼女の同業者には色々なタイプの女性がいます。
ガードの堅いタイプ、突っ張ったタイプ、なにかと迎合するタイプとか色々。
だいたい打ち合わせの掛け合いでわかるものです。
久々に自然なタイプだな〜あ。
地方と東京のシステムの違いに戸惑ってしまうと本音をこぼしてくれました。
よし、じゃあ馬さんがみっちり教えてあげるよ(笑)
一通り、打ち合わせも終わって、
私が先週も競馬でやられて落ち込んでいると与太を話すと
「私は競艇が好きです」と彼女が言う。
えっ、競艇! ギャンブル狂の終着駅。
私だって地方競馬か、いっても川口オートまで(汗)。
岡山で父親から手ほどきを受けたようで、
こちらに来てからも多摩川競艇に時々行くのだとか。
「気持ちいいですよ」って笑う彼女。
もう一発で好感度大爆発。いいなあ、こういうタイプ。
食事に誘いました。(必ず誘います。仕事ですから)
事務所を出て、エントランスの階段。彼女の歩行の不自由さに、はたとします。
そうか、足悪いんだよな・・・・
「足、悪いんだ」
彼女は「股関節」と「脱臼」という単語をくちにしたような。。。
先天的な障害というようなニュアンスだった。
少し歩調を抑えて、青山通り沿いを二人で歩いて、駅ビルの方に向かいます。
西日が眩しい。
その先に、多摩川競艇で専門誌を握りながら水面を見つめる彼女の姿を想像してしまう。
それから数回、彼女は元気に、私の事務所を訪れてくれました。
私は彼女が来るのが楽しみだった。
ところが、
ある日を境に担当者が変わってしまった。
その訳を、それとなく聞いてみたら
「彼女は足が悪いじゃないですかあ。馬太郎さんの事務所まで通わせるのは
可哀想だって話になって、デスクワークオンリーの部署に異動したんですよ」
そう、そうなの。そりゃまあ、しょうがないよね。
なんともはや溜め息がでました。