あかんたれブルース

継続はチカラかな

放っておけなかった「うつ」の親友





三国志』の真の主人公は曹操である。なんて言われますが(汗)、

坂の上の雲』の真の主人公は乃木と児玉源太郎だ。といっても異議なし!

可決しました。

物語が最高潮に盛り上がるのが乃木三軍の旅順要塞の攻略戦です。
なにをやってもうまくいかない、屍の山。嗚呼、爾霊山。

この第二回攻撃が失敗してから、乃木はノイローゼに陥ります。
「うつ」になるわけだ。ふらふらで死のうとする。
参謀部には乃木の自殺防止という仕事も加わります。

そのとき、

児玉が大山巌総司令官の反対を押し切って旅順行きの列車に飛び乗るんだよ。
「乃木が死ぬ」って言ってね。

乃木希典。このブログでは「マー君」でお馴染みです。
幼児虐待、イジメ、不本意な進路と苦手意識を背負った悲しい明治の人。
乃木は西南戦争で「軍旗喪失」という失態を過剰反応して
精神も喪失してしまい自殺を企てます。

それを阻止したのが、親友児玉源太郎だった。

児玉は乃木に約束させます。「乃木よ、一人では死ぬなよ」

その約束をはたすために、統帥権紊乱を恐れずに(公務員なのに)
児玉は持ち場を離れて、旅順に向かうのだった。ああ、もうダメ泣けてしまう(涙)。

これが旅順攻略の感動の嵐となって『坂の上の雲』を読む者の心を揺さぶる。
が、これを揶揄して「捏造」と叫ぶ者たちもいます。勝手にしろ!

それから時は流れて

乃木はあれだけ明治天皇が「殉死」を禁じたにも関わらず、
妻を伴って凶行に奔ります。
当時、世論は賛否にまっぷたつに別れましたが、いつのまにやら
名将、忠臣、仁の人に祭られて神社まで出来てしまいます。

乃木の死を西南戦争の汚点から、というのが定番ですが、
私は、明治天皇崩御のときに旅行中で、
それを知らなかったことが
東京にいなかったことが大きいと思います。

その意味でも、乃木はずっと「うつ」だったと思うのです。
また武士道の誤った認識。弊害に
「自己装飾と自己演出の特化」があります。乃木は理想的な武人を追求した。
ある種の完璧を求め、ストイックな生き方を己に課しましたが、
本来の彼自身のアイデンティティーはどこかに置き忘れてしまったようです。

こういうのもあります。
戦場での指揮官とは、敵を殺傷することよりも、自分の部下を死なせる権限を有している。
このため、長く戦場にいると精神を病んでしまう場合が多いそうです。
その意味で、乃木の感性は豊かで軍人にはやはり不向きでしたが、
人間的であったと思うのです。

乃木が殉死するときに、児玉は既にこの世にいなかった。
日露戦争後すぐに、脳溢血で急逝します。
児玉の死を、過労死とかストレスによるとか、暗殺説などもある。
それほどの急死だったのです。

児玉源太郎は死の直前に大笑いをしています。
それは大阪から届いた杉山茂丸の電報を読んでのことでした。
その内容は「後藤新平、満鉄総裁。実はやる気満々」というもの。

これだけの難題と多忙の中にあった児玉ですが、私は彼に「うつ」を感じない。
児玉は大笑いして死んだのです。それが証明です。


福田和也は『乃木希典』のなかで、
現代において児玉源太郎はたくさん存在するが、
乃木希典のような人物はもういない。とか書いていました。

福田君、違うよ。

乃木のような
やさしくて、気弱で、傷つきやすい
悲しい者たちはたくさん存在しているじゃないか。





「鬱」は文化の烙印?(7)坂の上の鬱(二)