あかんたれブルース

継続はチカラかな

ディベートに弱い男



十七夜
ここで正岡子規はその短い生涯をとじてしまいます。享年35歳。
家族の友人の恩師・陸羯南の姿は感動的(涙)。
司馬さんはその後、『ひとびとの跫音』という作品で子規の残された家族を
見守っていきます。それはとても温かい眼差しなのだ。



海軍大学で教鞭を執る秋山真之に食いつくように熱心に聞く者あり。

八代六郎である。

食いつくだけじゃない。実際に食ってかかってきます(汗)。
この人は真之が海軍兵学校時代の教官だった人なのです。
で、論争を挑む。

両者譲らない。

八代は大佐。真之は少佐。

「愚劣きわまる。八代という人はもっとえらい人かとおもったが、
 これしきのことがわからぬとは、おどろき入ったことだ」

八代はだまった。考え込んでしまて、だまって帰った。

翌日、目を真っ赤にしてやってきて、
「秋山。君のほうが正しかった」

八代六郎とは、こういう人です。

さて、余談じゃよ。

海軍士官になれなければ、やくざになるとはずだった八代六郎は
愛知県犬山市の出身。
なんでやくざかというと、さ、
それ以前、秩父事件やらの民権運動暴動事件にやくざが加わっていまして、
(農民は博徒のお客さん、運命共同体という事情もあって)
八代六郎の実兄・松山義根は尾張藩が組織した草莽隊(点抜け、博徒ゴロツキの私設義勇軍)の
一員でした。

これは尾張藩だけでなく、当時の武士が腰抜けで
腕っ節も度胸もからっきしダメだったことを物語っている証。
尾張藩は彼らを過去の罪状免責と士分取り立てで利用します。が、
維新後、それを反古にします。
これが原因で名古屋事件に発展する。

八代が海軍に入れなかったら博徒の世界に行く。は本気だったんですね。

大変男気のある提督で、山本権兵衛にも一歩も引かなかった人物です。
そして、清廉純情の人。

後輩の広瀬武夫を心から愛した。広瀬だけでなく部下を人間を愛した好漢。

真之に広瀬を紹介したのも八代、真之の結婚の世話をしたのも八代。
日露戦争緒戦「仁川海戦」では浅間の艦長ですが、部下を落ち着かせようと
甲板で尺八を奏でた海の男です。曲は「千鳥」(笑)。いいねえ(涙)

で、八代が後年またまた論争しました。相手は若き安岡正篤(当時26歳)。
八代は63歳、男爵海軍大将で軍事参議官。
その夜、八代宅に招かれた安岡は酒の席から意見が対立。激論は夕方5時から
夜半0時をまわっても決着はつきません。両者一歩も引かない。
酒は既に五升も平らげております。
八代の体を心配した夫人が「安岡さんもう帰ってください」と悲鳴。
仕方なく帰ろうとする安岡の背中に
「逃げるか!」と八代の罵声が・・・(汗)。

それから一週間後

紋服袴の正装で八代が安岡の自宅に現れます。
この一週間熟考した結果、間違っていたと反省したといいます。
あの夜、間違っていたほうが弟子になると口に出したことから
八代は安岡青年の弟子になると言います。

「ご冗談でしょ(汗)」

八代六郎は本気です。

以後、昭和五年に他界するまで、
八代は安岡を「先生」と呼び、宴席では必ず下座につきました。


八代六郎、大好き!




坂の上の雲』文庫第三巻 第十七章「十七夜」

ドラマでは鶴太郎が演じます。ちょっと軽いけどね(汗)
海軍では島村速雄、八代六郎、鈴木貫太郎の三人が好き。です。
陸軍では西郷従道児玉源太郎秋山好古かな。
それと、福島安正も好きだよ。