あかんたれブルース

継続はチカラかな

お茶目な軍師

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いよいよ日露戦争が避けられなくなってきます。
そして、児玉源太郎の登場。
二階級降格人事を受けて、大臣から参謀本部次長に就任した児玉。
明治三十六年、児玉は兜町渋沢栄一の事務所に現れる。
「歳のころは五十ぐらいの小柄な男である。
 頭が里芋の子のようにまるく、きれいにはげ上がっている」
ハゲだったのか(涙)。

アポなしで現れた児玉に渋沢は戸惑います。
財界として、日露戦争には断固反対の立場をとっていました。
そんなお金があるわけがないじゃないかと。
児玉は、それを説得に来たのです。

この場面で児玉は名刺を忘れて、受付の者から警戒される。何者か?と。

児玉のこういった権威とか役職にこだわらない
フランクさを紹介するエピソードを一席。悪戯かなあ(汗)。

やはり同じ頃の話です。余談だよ。

箱根「福住楼」にトボトボと田舎の村長さん風情の五十男が現れます。
鉄無地糸織の羽織りに怪しげな鳥打ち帽、小倉鼻緒の下駄。
無論、予約なし。

「一泊させてもらいもうす」

作り笑いの女中は当惑を隠せない。

「生憎ではございますが、本日は総理大臣の桂様はお出でになさいまして、
 誠に申し訳ございませんが、お座敷はみな塞がっております。」

と、体よく断れてしまいます。

「いやいやどこでもかまわない。湯に入って一杯飲めればいいんじゃ」

と、引き下がらない村長、いえ児玉源太郎ですな。

結局、布団部屋だったらしき三畳の部屋に通されます。

この日児玉は盟友の桂と日露戦争の密談にこの宿を訪ねたのですが、
こういった茶目っ気といか悪戯が癖も男です。

児玉の到着が遅いので、不信に思った桂が怪しい村長の話を聞きつけて
警備の警察署長と行灯部屋をのぞくと、そこには紛れもない
前内務大臣兼文部大臣、現台湾総督兼陸軍参謀部次長の児玉源太郎陸軍中将が
女中をからかっている声がする。

「なんだ、ここにいたのか。悪い洒落だぞ。
 早く二階に来たまえ。いくつになっても若い気じゃなあ」

女中は青くなったとさ。


児玉源太郎の人物を紹介する逸話ですが、
これとまったく同じものが児玉の盟友後藤新平にもある。
どっちが古いかというと、日清戦争前の後藤の話が古い。
この悪戯、後藤を児玉が真似たのか?
もしくは、当時流行っていたのでしょうかね。
明治人はお茶目です。




坂の上の雲』文庫第三巻 第二十二章「開戦へ」(1)