文庫本「『坂の上の雲』(まるわかり)人物烈伝」
プロローグ
おおよそ百年前、日本と日本人はロシアと戦った。
国力差約八倍、常備兵力十五倍の大国ロシアに挑戦したのだ。
それは、どう考えても無謀な戦争であった。
この日露戦争を
日本の侵略戦争の原点と位置づけて語られてもいるようだが、
現実には日本にそんな余裕はなかった。
言い方は悪いが国家経営は自転車操業の中で、
窮鼠猫を噛む崖っぷちの状況から
開戦に踏み切った
というのが真相である。
そこには、当時の列強諸国の植民地主義と
アジア諸国の関係という現実があり、
明治維新からおよそ三十年しかたっていない
日本国と日本人の姿への
理解がなければならないだろう。
この本は明治という時代に生きた男たちの物語である。
国家存亡の危機として日露戦争は戦われ、
兵士となった多くの者たちが死んだ。
私たちの
三、四世代前の太郎と二郎と三郎たちの
生き様を通して、
日露戦争を綴ってみたいと思う。
物語は日露戦争前夜、日英同盟締結にさかのぼる。
そして、ひとりの明治人の死で終わる。
明治「時代と人物」研究会