あかんたれブルース

継続はチカラかな

汚れた顔の官僚の花丸二重丸



問題爺・山県有朋ですが、
その生の人間性杉山茂丸の『俗戦国策』では伝えてくれます。
そのなかで、日露戦争奉天会戦直後に、陸軍の機密情報が
ドイツの参謀本部に漏れてしまう事件がありました。

幸い、杉山と親交の深い米国人モールスによってその事実がもたらされた。
これが、杉山から児玉源太郎への四千字の暗号電文となり、
これが、児玉の突然の帰国となって、
これが、講和条約交渉に入るきっかけとなる。

児玉の帰朝については、『坂の上の雲』でも紹介されています。
参謀の松川敏胤は児玉の旅順行き同様に反対する。そのとき、児玉は
「松川、お前はただの兵隊だ」という言葉を発する。
司馬さんのいわんとする意味はそれで充分理解はできますが、
司馬さんも執筆にあたっての参考資料に
『俗戦国策』も杉山茂丸も飯野吉三郎もなかった。

だから、突然の児玉の帰朝はインスピレーションのような
児玉のひらめき、天才軍師戦略家として描かれている。
それでも、まあいいのですけどね。

さて、この四千字の暗号電文を鼻血まみれで書いて送った夜、夜中・・・
興奮して、到底眠れない杉山が訪ねたところは・・・
小石川目白台の山県の邸宅だった。
時間は深夜3時前。もうすぐ走れ歌謡曲、一人じゃないんだ日野ファミリー
コックピットのあなたにじゃあないけれど、山県は起きていた。

ここからの山県と杉山のやりとり、面白い!

杉山は、この情報に見合う、本物でしかも偽物の情報を提供しろと迫る。
山県の生真面目さが十分理解できたうえで、山県は最終的にそれに応じる。
山県もバカじゃないんだ。
ここから、桂太郎邸の段と参謀本部での段、ほんの数日に山県はカッコイー。
「君は児玉に電報を送ったな」という台詞と
「児玉は帰ってくるぜ」のしめの台詞には、正直痺れます。

日露戦争に際して、二階級降格の参謀本部次長に就いた児玉の最大の懸案は
上司にあたる参謀総長を山県ではなく、大山巌にすることでした。
「山県の爺さんじゃやれない」山県は煩いですからね(汗)。

けれども、南山の戦いの被害と問題から現地司令部「満州軍総司令部」を設置し、現地に赴きます。
ここで、山県は大本営(留守番ですが晴れて)参謀総長となる。

この間のこれ以降の揉め事は児玉の予測通りでした。
しかし、一番の気がかりは明石元二郎に託したロシア転覆の大諜報の
責任者が山県になったってことです。
そう、例の機密費100万円の最終決定者は山県有朋だってことです。
山県は非常に煩いし、細かいし、慎重だし、ヤキモキさせられます。
長岡外史が苦労している。意外だけれど寺内正毅がフォローしている。
でも、山県を官僚のトップとして考えればそれは当然であり、
機密漏洩からポーツマス条約締結までの山県の行動は花丸二重丸です。

貧乏育ちで根性が捻れた食えない性質の爺ではあるけれど、
山県がそう在りたいとした「一介の武弁」であること認めてあげてもいい。
ふと、怪物毛沢東の言葉を思い出しました。
「黒い猫でも白い猫でも鼠を捕ればそれでいい」とかなんとかの

同じ長州派閥のボスでライバルの伊藤博文とは何度も対決した。
けれども、双方だからといって憎しみ合うこともなかった。
また、板垣退助が零落したときに、杉山の言を聞いて
さりげない援助の手をさしのべたのも山県だった。

伊藤博文暗殺の黒幕を山県だとする説は根強くあります。
しかし、山県はそんな器ではない。
それは、山県にはできない。

決して好かれる資質の人間ではないけれど、
山県はそういうことはしない。できないのだ。

戦後の歴史考察にはマルクス主義も介在して
より、その解釈を不自由にさせている。
帝国主義は悪であり、ある時期その最大の実力者だった山県有朋も悪だ。
という白黒はっきりした論法が罷り通ってしまうけれど、
歴史を科学と認識すれば、そこに善悪などないんだよね。
太平洋戦争の責任は戦犯にかぶせて被害者面しているけれど、
それみんな日本国民の責任でもある。
それ以前の責任を伊藤博文山県有朋にひっかぶせているけれど、
冷静に事実関係をチェックして、それがとても不自然な考察だと
わたしは強く感じます。

中江兆民は正義で、頭山満は悪とする。しかし、なぜ正義と悪が親友なのか?

また、兆民の弟子で大逆事件によって殺された幸徳秋水が正義であるというのも
彼の活動をみつめていくと、はたしてそう手放しでいえるものかどうか・・・
ジャーナリストというものを過信してはいけない。
それは、黒岩涙香の「万朝報」も秋山定輔の「二六新報」も
幸徳秋水の「平民新聞」も共通していえることで、
そこに購読者が存在して成り立ち、ビジネスとして成り立っている以上
ある意味で宿命的なものだと思うのでした。