あかんたれブルース

継続はチカラかな

児玉大好き!

ドラマ『坂の上の雲』第三部によせて(4)


二〇三高地が堕ちましてね。

「そこから旅順は見えるか」

「見えます。モロです丸見え!」


感動するよ。
読者はそこまでの理不尽の憤りが最高潮にあって
児玉の登場で溜飲をさげる。

伊地知もとんだヒールを与えられたもんだ。
ま、半分は自業自得だけどさ。

坂の上の雲』の最大の魅力は、この旅順の児玉の存在だと
わたしは確信します。
原作にはないけれど、乃木は西南戦争で西郷軍に軍旗を奪われたことを
非常に苦にしてノイローゼになって自殺未遂を繰り返す。
それを児玉が止めたのでした。

「乃木よ死んではならん」

乃木ってさ、不器用で、頑固で、融通が利かない奴なのだ。
でもね、ズルっこくはない。だから、酒癖は悪かったけれど
けっこう、人に好かれていたんですね。
ほおっておけない、友人だったのだ。そういう人いない?

児玉はそんな乃木が好きでした。

そんな頑迷な乃木も最後には児玉の説得を受け容れる。

「わかった。しかし、いつか
 このために死ぬだろう。そのときは許してくれ」

「乃木よ、しかしそのときは、独りで死ぬなよ。
 独りで死ぬことは許さん。
 そのときは必ず俺に知らせろ」

ふたりの間で、こんな約束が27年前にかわされていた。

それが児玉が旅順に向かったもうひとつの理由です。
「このままでは乃木が死ぬ」
児玉は乃木を、この親友を、独りで死なせたくはなかったんだ。

熱いよね。なんだろう、この明治人の濃い人間関係の密度は。
暑苦しいか?
日本の存亡がかかる一大事に私情をはさんで怪しからんと思うか?

いいじゃないか。すべて解決させたんだぞ。
なに?結果論だあ? 
アホ、話の筋が通ってないし、単語の使い方が間違ってる。


ま、そんなわけで、『坂の上の雲』の中盤の大一番でした。
児玉源太郎っていいでしょう。わたし大好き!


さて、旅順に捧げる鎮魂として
馬太郎節でも唸ります。

  日露双方の利害から
  第三国の地で展開された攻防戦は
  神々の怒りに触れた。
  旅順の大地は貪欲に血の生贄を欲した。
  その司祭が伊地知であれば、豊島は儀杖官である。
  弾かれ薙ぎ倒されていく巡礼者を清める
  賛美歌のように砲撃はなされた。

  二十万樽のセメントで固められた厚い要塞の壁に
  その祝福の声は届かない。
  陸地に向けて埋め込まれた
  四百八十八門の大砲と機関銃の群れが
  容赦なく受難者たちを英霊に仕立てていく。

  
  旅順攻略の後、
  総司令部では乃木への批判が高まっていた。
  そのとき、児玉源太郎は叫ぶ。

  「あの難攻不落の要塞をおとす極限の苦戦を、
   乃木以外に勝てる男はいたか」と

  明治人はこのように戦った。



『『坂の上の雲』まるわかり人物烈伝』(徳間書店
「豊島」の項と「あとがき」より
豊島って「てしま」って読みます。
第三軍の砲兵の責任者