あかんたれブルース

継続はチカラかな

ホルヘの白昼夢

微睡みのゲオルギウス(3)


もうだめ。まるで催眠術にかかたように一歩一歩足が勝手に
引き寄せられていく。すこしずつ近いづいていくたびに
遠近法の法則に則って、えっ、いや
女が・・・大きく、ええ?
そばまできて、女がデカイ。2メートルはあるんじゃないか?

女と女が差した日傘の影にすっぽり入っていた。
見上げるようにその顔を見ました。

あれ? この顔どこかで・・・
色白だけど腫れぼった顔で二重瞼が肉に埋もれて
おく二重になっている。
よくあるおばさん顔だけど、どこかで以前に会ったような・・・

「あのう・・・」

「照子でいいわ」

照子? まったく記憶のない名前だ。

「暑いわね」

「はい」

「ひと雨ほしいところね」

「はい」

と突然、バケツをひっくり返したような勢いで
土砂降りの雨が、しかもわたしたちのまわりだけ
局地的に降っている。

幸い女の傘がひさしになっている。
最初は地表の熱でもやっとしたが、すぐに涼しい風に包まれた。
と、蛇口を閉めるようにピタッと雨は止む。

なんだこれ?

ホームの左側を青い京浜東北線が通過していく。

「次の山手線が来たら乗るわよ」

こんな舞台衣装の日傘さしてる大女、
乗務員が素直に乗せるかな
なんか恥しいなあ。

並んで電車が来るのを待っていると
ネコバスを待つ
トトロとサツキのようです。

外回りの山手線が来た。
女はなんなく電車に乗り込んだ、それも自然に
わたしもそのあとに続く(他人のふりして)
車両は比較的に空いていて、わたしたちは並んで座った。
(他人のふりして)
座ると不思議なことに女とわたしの背丈はおなじくらいでした。
俺の座高が高いのか?

ドアが閉まり、電車が動き出した。

車内は空いているとはいえ、
こんな奇抜な格好をしているのに
他の乗客は女にまったく反応しない。
これが東京なのか

もう一度、女の顔を盗み見ようすると
「まっすぐ前を向いてなさい」と叱られた。

正面を向いたまま

「あのお、」

「天野照子」

「天野さん」

「照子でいいわ」

「照子さん、以前どこかでお会いしましたっけ」

「忘れたの? 一年前に会ったわよ」

「一年前・・・」

「まだ覚醒していなかったみたいね、まみちゃん」

「まみちゃん。それ誰ですか?」

「あなたよ」

「わたしが、まみちゃん?」

「あなたはアマミオーシンって馬だったよ」

「馬! 馬ですか、やっぱり(汗)」

「そうまみちゃんて呼ばれていたの」

待てよ、アマミオーシンって・・・

「昭和62年組の競走馬だったけど、成績がふるわず
 翌年の春には障害用の競走馬に転向。
 昭和63年の秋、東京競馬場の障害レースで骨折予後不良

思い出した。そのときわたしは府中競馬場にいたんだ。
骨折した右前足をブラブラさせて第四コーナーを柵沿いに
ビッコしなから走っていたのが痛々しかったなあ
アマミオーシン・・・条件馬だったけれど憶えている、ん?

「ちょっと待ってくださいよ。
 わたしの前世が馬だとしても、その馬は
 昭和63年に殺処分されているんですよ。
 わたしは昭和34年生まれてて
 そのときは28歳ぐらいだったはずですが」

ムキになって女のほうをむいて言った。
女もわたしに顔を向けて
「そういうものじゃないの」ときっぱり言った。

そういうものじゃない? どういうことなんだ?
しかし馬太郎なんていいかげんなハンドルネームを付けたら
前世も馬だったなんて、しかも28年のズレがある(汗)
それまでのわたしの人生ってなに?

女は再び、毅然として正面をみている。
対向の車窓からラブホテルの看板がやたら目につく。
電車は日暮里から鶯谷の間を走っています。 

もう一度、女の顔をちらりと見た。
腫れぼったい顔。一年前に会ったっていったよなあ
どこで会ったんだっけ・・・
一年前・・・


ああああ、っ、


「あなたもしかして!」


「そう、神様よ」


女は向きをかえずに、そういった。

一年まえ、確かに、わたしはこの女、
いやこの神様に、会いました(汗)。