あかんたれブルース

継続はチカラかな

ロマンスは劇的に

微睡みのゲオルギウス(番外・よし姉さんのリクエストに応えて)


「もしもし」

「馬ちゃ~ん」

だ、誰だあ・・・う・ん・・・これって
まさか昨日のあの間違い電話のあの女?

「ヤフーブログでラブベル馬太郎と名乗っている。
 それ以前はチャーリー馬太郎だったわね。
 53歳、になったばかり。
 性別は非公開にしてあるけど、完璧に男性ね
 ブログタイトルをころころ変えるから探すの苦労したわ」

「し、調べあげたんですか」

「退屈だったの」

「あんまりいい趣味じゃないなあ」

「明日、午後一で護国寺で打ち合わせがあるでしょう」

「なんでそんなことまで知ってるんだ」

「時間はとらせないからその前の11時30分に
 JR西日暮里の3番線4番線のホームの
 進行方向の一番後ろで
 劇的な出会いにしましょう」

「劇的、ですか」

「そう劇的に」


結局、打ち合わせの時間より1時間早めに家を出て
千代田線の西日暮里で下車してしまった。
物好きなのか・・危ないかなあ・・・

劇的ねえ・・・

しかしなぜ、あの女はわたしが今日13時に音羽
打ち合わせがあることを知っていたのか?

乗り換え口のエスカレーターから
地上に出ると眩しい。
今日も暑いなあ

ホームをゆっくり進行方向の反対側の池袋方面に歩く
キオスクを通り過ぎたあたりで、いたよ。
きっとあれだ。こっちを見てる。

黒のシックなワンピースにサングラス
フェラガモのヒールにひさしの大きな帽子
西日暮里のホームには不似合いな女が、こっちを見た。
シガレットケースから煙草を一本出して咥えた。

わたしは傍らまで近づくとZippoで火を着けた。

「ここは禁煙ですよ」

女はライターに顔を寄せて煙草に火を着ける。
軽く吸うと、右手の指に挟んだ煙草をホームに落とした。

「君たち!」

わたしたちは駅員に耳を引っ張られて
駅係員室に連れていかれて一時間近く説教された。
その間、女は無理やり強要されたと言い張った。
わたしは、わたしは貝になりたい。

西日暮里の改札を出て、わたしたちは谷中墓地を歩いた。
わたしは釈然としない思いでいっぱいだった。

「劇的だったわね」

シャクに障ったのでポケットから桃を出した。
左右のポケットから一個ずつ。
左手のそれを女にほおった。
不意をつかれて女は両手でそれをつかむと
持っていた白いポーチが歩道に落ちた。

わたしは右手の桃をそのまま齧った。
桃の汁が口元から顎に零れて首筋まで濡らす。

ワイルドだろ。

しかし、皮ごとだったので口のなかが桃のヒゲでニガ痛い。

女はポーチを拾って、桃をそのなかに仕舞うと
その奥からパナップルを出した。しかも二個。
なんて奥の深いポーチなんだ。

女はそのうちのひとつをわたしに投げ返した。
それをキャッチした拍子に食いかけの桃を歩道に落とした。
道は下り坂で食いかけの桃がころころ坂を転がっていく。

女はそれを無視しておもむろにパイナップルに
しゃぶりついた。
出鼻をくじかれた思いからわたしもしゃぶりついた。

男と女が、真昼間から皮ごとパナップルにしゃぶりつく
服は汁だらけ口元は血だらけ。痛い。
劇的な出会い。

これが大人のラブロマンスだ。
よし姉、ミナミでやってみてくれ。ただし
新世界でやるなよ。真似するオヤジが二、三人。