あかんたれブルース

継続はチカラかな

ラブロマンスは突然に

微睡みのゲオルギウス(番外・よし姉さんのリクエストに応えて(2))


それから二人は谷中墓地の清掃作業員に叱られて
西光寺という浄土宗のお寺で説教されました。
女は、自分はパナップルアレルギーで
強要されただけと言い張った。
わたしは、わたしは貝になりたい。

やっと開放されて、谷中霊園の敷地を出ると
お互いが果実の汁と汗でベトベト、服はヨレヨレ
横断歩道を渡ろうと右手を上げたら
タイミングよかったのか悪かったのかタクシーが止まった。
ドアが開いたので、仕方なく後部座席に座ると
女も当然のように乗り込んできた。
おい、くっつくなよ。ベタベタして気持ち悪いじゃないか(汗)。

「どこでもいいわ、近くのホテルに行って」

ホテル・・・危険な単語がわたしを緊張させる。
ここから近くのホテルといえば鶯谷のホテル街
案の定、狭い路地を数分走ると
「温泉海月」というホテルの前で下ろされた。

女はフロントで手早く受付をすませルームカードを手にした。
その間、大理石のエントランスに飾られている
ライオンの彫像の口からお湯が出るのを眺めていた。
「天然ラドン温泉・・・源泉かけ流し」
上野近辺でも温泉が出るのか?

部屋は7階の707号室だった。
狭いビジネスホテルといった感じ。ただ内装が極彩色の花やしき
サングラスを外して室内に取り付けてある小さな冷蔵庫を開ける。
ミネラルウォーターの小ぶりなペットボトルがふたつだけ
入っている。そのひとつを出して、
コップに移しかえて喉を潤す。桃とパナップルと鉄の味がした。

「着替えるから先にシャワー使って。早くしてね」

そうか、ベトベトしてるからシャワーですっきりしたいわけだ。
シャーも天然温泉なのだろうか。だったら本当にかけ流し。
しかし、お湯はカルキの臭いがした。
狭いユニットバスの浴槽でわたしは考えた。

しまった、午後一から打ち合わせだったのに!

仕方ない腹水たまればもうお仕舞という。
カンネンして、浴槽から、出ると
女が待ち構えていたように
浴室に入っていった。手になにか持っていたようだけれど
あれは、お風呂セットかしらん?

それから、十数分・・・ベッドの
向かいの備え付けのドレッサーの鏡に自分の顔を映す。
愚か者が一人、ぽつんと映し出されていた。
とても直視できなくて目を瞑ってしまうと、
さっきの駅員と霊園作業員と坊主と町会長の顔が浮かんで
わたしを罵り嗤う。

「貝になりたい? お前は青柳、馬鹿貝だ!」

やめてくれ!

カッチャとバスルームのドアが開く音で我に返った。

女は、バスタオルで体を包み、お約束のように
タオルで三角巾をつくって給食のおばさんのようだ。
お寺で手当てしてもらった口のまわりの赤チンが
みょうに艶かしくもある。

女はわたしをじっと観察している。
くびれのないそのラインに俺が悩殺されたとでもいうのか

わたしは、ふたたび喉の渇きをおぼえて
コップに残っていたミネラルウォーターを一気に飲み干した。
それを確認すると、女は自らバスタオルを剥ぎ取った。

あっ、わたしは思わず立ち上がった!

そこには赤いボンテージに身にまとう、女王様が・・・


うっ、か、体が、痺れる・・・
目の焦点が定まらない。乱視が進んだのかそれもと老眼か・・・
低血糖か高血圧か

わたしは倒れこんでしまった。

女が
わたしを見下ろして
薄笑いを浮かべている。


さっきのミネラルウォーターになにか入れたな。

わたしは意識を失った。