あかんたれブルース

継続はチカラかな

間違い電話

美咲とわたしのお話(2)


 それから十数年経った
 その年、
 新型インフルエンザの流行がちょっとしたパニックに
 なっていました。
 それが他人事ですまされなくなったのは、
 私自身が感染して三日ほど
 寝込んでしまったからです。
 あまりのつらさに重い腰をあげて近くの病院に行き、
 案の定それだと確認されると、
 タミフルを処方されました。
 これが例のタミフルか…
 その頃、ワイドショーでは
 新型インフルエンザの特効薬として登場した
 タミフルの後遺症として
 幻覚障害などが騒がれていましたが、
 さほど気にすることもなく
 緑の錠剤をくちに含んで飲み干したのです。
 それから一晩眠ると、症状は緩和されていました。

 そして、あの間違い電話があった。
 あれも幻覚だったのか?
 いえ、あの電話は幻覚なんかじゃなかった。



 二晩続けて同時刻に間違い電話がありました。
 夜の九時四十五分頃、
 「イトウさんのお宅ですか」と若い男の声。
 最初の晩は「違います」といって
 あっさり切りましたが、
 昨夜は「?」っと思って、
 「違うよ、そういえば昨夜も間違ってかけてきたな」
 とやってしまった。

 相手は
 「いいえ、かけてませんよ」と当惑気味。
 「そうかあ? 昨夜も同じ時間にかかって来たぞ」
 「あのう、03の××××…ではないですか?」
 「ビンゴ! 合ってるよ」
 「じゃあ、美咲さんは?」
 「そんなの居るわけないじゃないか」
 「は~あ…そうですか」
 「なんだ、騙されたんじゃないか」
 「へへへっ」
 「へへへって言われてもなあ」
 「失礼しました」
 「ああ」

 今夜も間違い電話あるかな…
 イトウミサキ? どっかで聞いたような名前…
 こら、美咲、
 他人の家の電話番号を使うなよ。迷惑だろ。
 きっと可愛い小悪魔なのかなあ、
 とか父親になったような気分です。

 今度かかってきたら「いま外出してる」なんて
 からかったりすると厄介な事になるんだろうなあ。
 そんなおかしな想像をめぐらせて
 顔をほころばせていました。