あかんたれブルース

継続はチカラかな

こんな感じでどう?

 銀子の精神疾患の正体はなんなのでしょうか。医師は非定形統合失調症として、現在は双極性障害に傾いている。私としてはボーダー(境界性パーソナリティ障害)も疑わしい。彼女を双極性障害とするかボーダー(境界性パーソナリティ障害)とするか、それとも非定形精神病するかの判断は難しいものがある。
 躁うつ病は19世紀半ばにフランスやドイツで確認されたものです。
 すべてのはじまりは1899年にドイツの精神科医エミール・クレペリンが精神病を早発性痴呆(精神分裂病)と双極性障害躁鬱病)に分類したことよります。その後、1960年代になるとうつ病躁うつ病を区別するようになり、2002年に日本精神神経学会総会は精神分裂病を「統合失調症」に変更しました。
 精神疾患の二大分類であるうつ病双極性障害も含む)か統合失調症。まずこの判断さえ難しい。彼女の症状としてのトラウマや社会不安症、パニック障害、フラッシュバックはうつ病にはなく、統合失調の症状だといいます。これをもって銀子が統合失調症とするのは性急すぎる気がする。
 現在の銀子の担当医がその病名を考えあぐねている段階で非定形統合失調症としたのもわかるような気がします。非定型精神病とはうつ病統合失調症の中間に位置して双方の特徴を有する。担当医はそのどちらともいえず、若干統合失調症の傾向が強いと判断しました。けれどもそれを却下して今のところは双極性障害を有力としているわけです。私はこの迷いと判断は納得できる。私も銀子は統合失調症ではないと思います。
 実際に彼女は躁と欝状態を交互に繰り返しているわけす。欝状態が顕著でそれがながく継続するうつ病ではない。躁と欝が極端に現われる症状の躁うつ病である双極性障害のほうがしっくりくるのです。
 では双極性障害なのか? ここで悩ましいのはボーダー(境界性人格障害)の存在です。
 ボーダーの最大の特徴としては「見捨てられる不安」が付きまとうということと執着心が強いというのがある。銀子には見捨てられる不安症は十分にありますが、執着心については判断が難しくなんともいえません。執着心が強ければ二度の離婚などこれまでの思い切った決断ができただろうか。
 ボーダーには「感情の起伏が変わりやすい」という特徴がある。双極性障害よりも躁鬱の転換が短い。とすれば断然こちらのほうが銀子に当てはまる。
 「好き嫌いの感情が明確に二極化される」という特徴は、基本的に人間不信人間嫌い対人恐怖症という銀子の性質にあてはまる。私に対して最初からストレートな愛情表現を示したこともそれだったのでしょうか。また、裏切られるというのは好感をもつ相手に間合いをとらず無防備に接するというところから生じるともいえる。
 そして、密接な関係になってしばらくすると、「突然、相手を人格から否定すようになる」ちうのも銀子と符号する。
 「依存心が強い」はすこし違う気もしますが、彼女の独立心や孤高のスタンスは余儀なくされてのものであって、本当はさびしがり屋であり臆病で一人ですべてをやることをどこかで負担に感じている。依存心は強いのかもしれません。
 こうやっていくと銀子はボーダーではないのかという疑いがますます深まっていく。
 もしそうだとするとボーダーの障害をもつものを「ボダ」といい、ターゲットにされる相手を「タゲ」というのだそうで、私は完璧に「タゲ」になるわけです。
 ボーダーはターゲットにした相手をズタズタにボロボロにして破滅させるという。
 もうひとつの非定形精神病は統合失調症双極性障害躁うつ病) の中間に位置して双方の特徴をもつものです。
 そんな物騒なボーダーよりも非定形精神病のほうがマシと考えるのは、非定形精神病患者はパートナーや家族と良好な関係を結果的に保てるという特徴の救いからでした。この絆の強固さには非定形精神病患者のそれまでの情の深さにあるといわれます。それをサポートするパートナーはそれを知っている。家族も同じで子供たちもそういうふうに育てられたわけです。そこが普通という家族関係とは異なっているのでしょう。非定形精神病患者の夫婦がその家族が異常というのもおかしな話と思うのですが。
 『ワイルドスワン』というノンフィクションのベストセラーがありました。文化大革命の時代に生きた少女とその家族の物語です。このなかで中国共産党の幹部職員だった父親が紅衛兵らの吊るし上げにあって精神を病んでしまう。その父を少女と家族は見事に完治させてしまう。その家族の愛と絆に私は愕然としました。
 さまざまなアクシデントやトラブルはあるのにも関わらず非定形精神病患者の離婚率は低くいそうです。普通の夫婦よりも。
 そこに男女差はあって男性のほうがその傾向は強い。女性の場合は決断力があり、切るときは躊躇しないという。それでもボーダーの破滅よりはマシかも知れません。
 日進月歩の精神医学の世界では様々な病名が生まれては消えていく。現在の認識もあっとたという間に覆されていく。そういったなかで銀子の病気の正体を究明するのは難問です。
 上記三つの疑わしき精神疾患を比較しても、これだとは言い切れない。特に双極性かボーダーの判断は難しいと思うのです。非定形精神病のように双極性とボーダーの特徴が混合しているというのが近いのではないかとも思う。
 つまり双極性かボーダーの違いは躁と欝の転換のスピードの長短にある。もしくは、双極性は躁か鬱の二極性ですが、ボーダーは感情の二極性なのでしょう。つまり友好的か攻撃的か、(激しく)好きか嫌いか、肯定か否定かというように。
 銀子の場合、縦軸が双極性で横軸がボーダーといのが一番すっきりするのです。縦と横のその十字架を銀子は背負っている。それなれば銀子の多重人格の疑いも納得できるのです。
 また、あと数年したらそう分類とか病名ができてるかものかもしれない。
 精神疾患は単一ではなく複合も有り得る。そして個人個人異なり型にはめるのは難しいということでしょう。
 だいたい人間なんてものはそう単純には出来ていない。カラダの病気も複数かかえているものです。たとえば糖尿病から腎不全という合併症が派生していくように。