あかんたれブルース

継続はチカラかな

『仁義なき戦い』は奇跡の映画

山守さん弾はありゃせんがの(5)


「そんなに仁義なき戦い観たいんだったら
 レンタルで借りてみたらいいんですよ」
こんなことをいう小才子がよくおる。
だいたいこの後に
「(公共の電波を使って)いかがなものか」
が付随します。
健さんだった黙って我慢しますが
文太だと岩井からの差し入れ弁当を投げつける。
「そっちとは家業(次元)が別でい!」

これが文太の魅力です。
もっとも健さんだってブチギレると
ボディー一発で脾臓破裂の前科一犯だ。

俺が観たいんじゃない。
観てほしいのだ『仁義なき戦い』を。
なぜ観てほしいか
本日はこれでいきます。

まず、この作品は奇跡の作品です。
原作、脚本、監督、役者などこれ以上ない
スタッフが最高のものを仕立てた。
本シリーズ5本を東映のオールスターが出演。
ま、ここまでは東映の十八番ですからいいとして
日活や大映の俳優がここに注入された。
潰れてちゃったんだよ(涙)
そのおかげといってはなんですが
日活から小林旭金子信雄宍戸錠
大映から成田三樹夫などが移籍して参ったぞ。
潰れちゃいないけど松竹からは三上 真一郎とか
フリーからは小池朝雄とか

ここまで役者が揃うことってないんじゃない?
東映だけのオールキャストじゃあない。
スチールだけですが藤純子だって特別出演してる。
日本映画の錚々たる俳優が顔を合わせたわけだ。
これがみーんな上手い。
まるで演劇のように何度観ても飽きさせない。

これがまず奇跡だ。

なんたって群像劇ですからねえ
本シリーズ5本だと同じ俳優が何度も生き返って
違う役者となる。
松方弘樹は3回蘇りました。ゾンビです。
奇跡です(笑)
よく仁義を観て同じ俳優が何度も出るから
わからなくなったという人がいますが
それは単なる注意力散漫で若年性痴呆の疑いだ。
梅宮辰雄の若杉と岩井を区別できない人
松方の酒井と藤田と市岡の区別つかない人は
まず気を揉んでください。
よく観ればわかる。

原作はこのドラマの主人公のモデルで
美能組組長美能幸三が旭川刑務所服役中に書いた
幻の手記がもとになっている。
そこには戦後最大の暴力団抗争といわれた
広島抗争の内幕が赤裸々に綴られていた。

それを飯干晃一がノンフィクションとして
再編集して、週刊サンケイに連載。
大反響から映画化へ
脚本を笠原和夫が担当するのですが
笠原は取材で広島入りした際に
偶然にも美能本人とコンタクトがとれ
さらなる偶然に海軍時代の大竹連隊の
先輩後輩という間柄だった。
気を許した美能さんは「書くなよ」と
口止めしつつすべて話してしまった。
だけでなく、敵対してた組長にも紹介してくれた。

仁義なき戦い』は実録と銘打っていますが
映画としてはノンフィクション以上に実話なのだ。
おかげで美能さんは殺されかけたほど。
なぜ助かったかをここで書くと長くなるのでやめますが
戦後の裏日本史を知るにはかっこうのテキストだ。

それ以前の話で、
この広島抗争を題材に中国新聞社が
『ある勇気の記録』なるノンフィクションを発表
これが菊池寛賞を受賞したりなんかする。
これを服役中の美能さんが読んで怒った怒った。
事実と違う!
その怒りが原動力となって幻の手記が生まれる。
つまりいい加減なマスコミやジャーナリストに対する
鉄槌の意味が込められてもいたわけだ。

わたしも『ある勇気の記録』読みましたが
取材が偏っているのと思い込みが激しく
首を傾げる記述が多い多い。
それと文章が荒いよね。
これじゃあ菊池寛が嘆くよ。
ま、そんなことはどうでもいい。

とにかく原作以上に映画のほうが
実話なのだ。これも奇跡だね。

映画化のきっかけは『ゴッドファーザー』の大ヒット
からで、この後でブロンソンの『バラキ』が作られた
この『仁義なき戦い』は和製『バラキ』みたいですが
内容は月とスッポンで『ゴッドファーザー』を凌ぐ。
つまりノンフィクションとしての資料的価値以上に
作品としても最上級の作品なのだ。
こんな映画、もう二度と撮れないよ。

この日本映画金字塔というべき作品に
主演したのが我らが菅原文太なのだ。
主人公広能昌三と文太がぴたーっと重なった
奇跡です。
一世一代のはまり役だ。

日本映画史上最高の名場面は
シリーズ第四作『頂上作戦』での
武田(小林旭)との再会のシーンだ。
そしてあの名台詞

「間尺に合わん仕事をしてしもうたのう」

わたしは、菅原文太は名優だと思う。
それを知ってもらうには『仁義なき戦い』を
観てくれないとわからない。
DVDで観てくれてもいいけれど
そういう人はセンスがいいからほおっておいても
観ると思うんだ。
だからこれだけはこの時期に地上波でオンエアして
ほしい。
トラック野郎で文太を理解してほしくないのだ。
それは仁義を観てからのデザートであって
メインディッシュは仁義でしょう。

これじゃあ菅原文太は最後まで
「間尺に合わん仕事をしてしもうたのう」
になっちゃううじゃないか(涙)

とにかくDVDでもいいから
観てくれんかのう。
山守のタマはわしがとりますけん。
おやっさん、こらえてつかあさい。



日本映画史上最高の名場面は
シリーズ第四作『頂上作戦』での
武田(小林旭)との再会のシーンだ。

「間尺に合わん仕事をしてしもうたのう」