愛の十字架(9)
私が修行時代の若い頃、佐倉さんという先輩というか上司の女性がいました。
三、四歳年上でしたかね。陽気でお酒とカラオケが好きな姉御でした。
恋多き女性でもあり、
当時、一歳年下の男の子。と付き合ってた。
その日、重役出勤の彼女の様子がおかしい。
「佐倉さん、どうしたんですか?」
「馬君、私、失恋しちゃった。」
理由は彼に新しい彼女が出来た。
さらに、その新しい彼女が「処女だった」という理由をトドメにされたそうです。
酷い男もいたものです。
それから泣き始めて、打ち合わせでも泣きっぱなし。同席してと言われた私は真っ青。
っていうかお客さんも真っ青でした(汗)。
夕方過ぎでも泣きやまない。仕舞には「少し出てくる」といって出奔。
行き先は、以前の不倫相手の所。私はそう耳打ちされましたがこれは秘密です。
少しといったにとうとうその日は、帰ってきません。
佐倉さんの失踪で会社はパニックです。彼女はチームリーダーですから。
「馬太郎君、心当たりは?」 「知りません(汗)。」
二日後、佐倉さんはすっかり元気になって、お肌ツルッツルで出社して来たよ。
「でも、馬君。私の前でもう竹内まりあとパンタの歌は歌っちゃダメよ」
はい。
結局、佐倉さんにとっての失恋の痛手とは、相手に振られたってことで、
それが「自分は処女じゃない」って事を間接的に喝破されたことみたいでした。
だって、佐倉さんが二股かけていたことを私は聞かされていました。
それはそうと、処女性の重視っていうのはいつ頃からこんなに価値が高騰したのでしょうか?
昨日までも日本の歴史からすると、近代の前半まではさほどでもなかったようですけどね。
昭和初期頃からなんでしょうかねえ。
これって、やっぱり、男の側の論理価値観でしょうか。
最近はあんまり無いんですかね?
男は常に最初の男でありたい。女は常に最後の女でありたい。