あかんたれブルース

継続はチカラかな

夫婦は他人。それ以上に、だからこそ

愛の十字路「番外-1」

 
 毎週水曜日に一緒にウォーキングしているノンちゃんは、先月ずっとお休みでした。

 理由は入院中のお父さんの病状悪化。先月、はじめに危篤状態になります。

 血糖値[1] 

 妻からこのことを聞かされて、もう駄目だと思いました。脳死です。

 けれども、その後、ノンちゃんからはなんの連絡も入りません。

 気にはなっても、気も使い、それでも、妻に「メールでも打っておきなよ」と。


 それから、しばらく経って、ノンちゃんから電話。

 「弟が二日、爺さん見てくれるから明日歩こうぜ!」
 いつも元気なノンちゃんの声の復活。

 ところが生憎その日、私は仕事でバタバタで参加できません。
 まっ、積もる話もあるだろし、女同士っていうのもいいんじゃない。

 お昼近くに二人は帰宅。「馬君ちゃんと仕事やってっか!」
 ウォーキング後に我が家でテータイムが日課。元気なノンちゃん。

 手を休めてキッチンで煙草をふかしながら、ノンちゃんと雑談。
 ねえ、ノンちゃん。と、お父さんの事をたずねると、
 途端に彼女の目がウルウル。あっ、不味い。

 私は話を替えます。例のおバカな話。。。

 彼女が帰宅して、妻がポツリ。
 
 「ノンちゃん、馬君にお父さんの話。聞いて欲しかったんじゃない」

 えっ、今まで、君と話してきたんだろう?
 それに少し俺が水を向けたらつらそうだったよ。少し狼狽する私。

 けれども事情は私が思うのとは少し違うようです。


 ノンちゃんのお父さんは、あの日、血糖値[1]から植物人間状態。
 延命の医療処置によって生かされている。それがもう二週間も続いているそうです。
 快復する可能性がるのならまだしも、その生死の意味に戸惑うノンちゃん。
 そして、先日。
 医者から最終選択を迫られる。
 このまま延命の薬を投与し続けると浮腫が出てきて、死に顔が見苦しくなる。とか
 それで、ノンちゃんは弟さんと相談して、やめてもらうことを決心しました。


 ところが、夫の銀ちゃんが異議を主張。そんなことはよくない。
 さらに、銀ちゃんの母親もそれに強く同意の姿勢を示します。

 それから、ノンちゃんの怒りが次第に爆発していきます。

 それでも、銀ちゃんは譲らない。姑さんもノンちゃんを説得し続けます。

 イライラが続くノンちゃん。

 尊厳死なのか。 生前の本人の意志?そんなこと聞いてません。

 なんで、お前らに説教されなきゃいけないんだよ!
 父親はもう死んだも同然じゃねえか、目を覚ます可能性はゼロなんだぞ!
 だったら、早く葬式あげて成仏させたいだろ。

 それでも、やっぱりやめたほうがいい。と譲らない。夫と義母。

 そして、最後に銀ちゃんも窮して、
 「知り合いに聞いてみる」とその場を後にしたそうです。
 ノンちゃん、それで余計にイライラ。誰なんだその知り合いって!


 そんなことが、あって、私の意見を聞きたかったのではないか。との事でした。

 しかしなあ、他人の家の話だし、、、。

 考えてしまいますよね。

 銀ちゃんの気持ちも、、、。 んんん、わからんな。 
 姑の気持ちも、、、。 んんんんんん、余計わからん。

 だいたい、実子姉弟が色々悩んで出した苦肉の選択に、なんで反対するんだ?
 倫理観? それとも世間的な常識? まさか世間体? 本音は恐いんだろうなあ。

 ノンちゃんはきっと自分の判断を客観的にどう思うかということが知りたいんだ。
 なんだったら、銀ちゃんには俺から話してもいいよ。

 失敗した。さっき、もっとちゃんと話を聞いてあげればよかった。
 あくまでも自分の考えとして、思ったことを伝えればよかった。

 よし、分かった。明日、ノンちゃんとランチしよう。電話しといて。

 翌日、ノンちゃんと妻と私と三人でお昼食べました。
 彼女はもうすっかり、腹を括っていて、いつものように明るい。

 その日の夕方、病院から連絡があったそうです。

 それでも、お父さんが亡くなられらのは一週間後でした。
 金曜日だったので、葬儀は翌週の水曜日。その日は雨でした。


 私たちは、あの日の午後にノンちゃんと話が出来てよかったと思っています。

 
 夫婦も他人 舅姑なお他人 子は鎹(かすがい)