愛の十字路 第二章(22)
「 日本もおしまいだよ。
僕のような優秀なパイロットを殺すなんて。
ぼくなら体当たりせずとも敵空母に五〇番(五〇〇爆弾)を命中させる自信がある 」
「 ぼくは天皇陛下のためとか、日本帝国のためとかで行くんじゃない。
最愛のKA(海軍隠語でKAKAつまり奥さんのこと)のために行くんだ。
命令とあらばやむをおえない。
日本が負けたら、KAがアメ公に強姦されるかもしれない。
ぼくは彼女を護るために死ぬんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだ、すばらしいだろう! 」
発言者は 神風(しんぷう)特別攻撃隊 敷島隊 隊長・関行男大尉。
この年の春、結婚したばかりだったそうです。
レイテ沖海戦の航空支援として日本初の特攻が敢行されます。
昭和十九年一〇月二十一日。
関大尉の「神風特別攻撃隊」出撃しましたが、再三の悪天から候敵空母発見できない。
五回目の二十五日、レイテ島北東で四隻の空母群を発見。
護衛空母「セント・ロー」の中央に見事体当たり。爆弾は甲板を貫通して格納庫を爆破。
同艦は沈没とされますが、実際には関大尉が体当たりしたのは護衛空母「カリニンベイ」で、爆弾は不発。
甲板に数個の穴を残した程度だったとか。
特攻とは優秀なパイロットでも難しいものだったそうです。
この日の戦果(護衛母艦一隻沈没と六隻の損傷)から特攻攻撃は本格化していきます。
冒頭の発言とは別に、
彼が特攻依頼を受けたときの模様は、数秒の沈黙のあと「是非、私にやらせて下さい」と
よどみなく明瞭な口調で答えたとされます。
しかし、実際には関大尉はその場で即答していない。
彼は死後「軍神」として崇められます。