幼い頃から、娼婦になるのが夢だったと彼女は言う。
私はその理由を聞くことはしない。
彼女の髪を梳くように、こめかみのあたりに右の掌をあててみる。
その真っ直ぐな眼差しは、そっと掌に隠れてしまった。
微かに肩が震えているのか。
私は思わず彼女を引き寄せると、その髪に唇をあてた。ほのかにミツコの香水のかおりが漂ってくる。
私はむかし読んだ吉行淳之介の小説の一節を思い出す。
「女の本質は煮詰めてゆけば結局同じことになるのだが、
水商売の女とか娼婦とかは、
世の中の良風美俗にツジツマを合わせて生きてゆくのを諦めているところがある。
そして、その分量だけ、シロウトの女より人間らしいところがある。」
ふふふ。不意に彼女が嗤いだす。
隣のカラオケボックスから漏れてくるような薄気味の悪い、声。
「馬太郎さん、小説と現実はちがうのよ〜お」
「だ、誰だ! お前は、 」
次回「好色一代男・怪談吉祥天女」は野球放送のために中止です。
それでも、続きは明日。かな