あかんたれブルース

継続はチカラかな

泣く女

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佐知子は金色の髪をしていた。

当時は今ほどカラーリングが浸透していなかったので、
どこのアバズレかと思いました。
場違いなんだ。これで仕事に支障はないのかと余計な心配をしたものです。

そういう自分も派手な服装だったので、
彼女の印象は最悪だったと後で聞きました。

ふた月ほど経って、天皇賞の前の晩
わたしたちは路地裏で唇を重ねていた。

彼女の肩越しに大きく満ちた月がとても印象的でした。

俺が守ってやるよ。

難攻不落の鉄の女はこの言葉でおちた。

厄介なことになるかな・・・

しかし、そのときは、本気でそう思った。

自分よりも七歳も年上の女。

好き勝手に生きてきた女の見本のような佐知子は苦労人でした。
見合いで結婚した相手と一週間で破局
理由は男のマザコンだと言っていましたが。
それから、どっぷり現実と向き合って生きるわけです。
関西から東京へ
三軒茶屋に朝までやている ふきだまりのような酒場があります。
そのカウンターの端で酩酊して止まり木から転げ落ちた女。
「悪いようにはしないから」という色ボケ上司の戯言にブチ切れて
「じゃあ、悪いようにしてもらおうじゃないか」
とテーブルの上に大の字になって啖呵を切った女。

そういう女が好きです。

タクシーの行き先を彼女のマンションに指定した夜。

部屋に灯りがついていた。
佐知子の男が来ていたのです。
彼女は狼狽しました。

仕方なく、そこから羽根木公園の坂道を歩き始めました。

いつのまにか佐知子の歩調が遅くなって
ふり返ると、佐知子が泣いていた。

夜中の住宅街に女の派手な泣き声が響きます。
オイオイ泣いている。
まるで、子供が泣いているように、赤い髪の女が泣いている。

電柱の灯りがスポットライトのように
佐知子を照らしている。




もののあわれ 女の番外地(1)
ビジュアルはたぶん山本タカト