あかんたれブルース

継続はチカラかな

男の本懐と男の真贋



城山三郎の作品に『男子の本懐』という傑作があります。

主人公の浜口雄幸井上準之助が凶弾に倒れる。そして
緊縮財政と行政整理による「金解禁」で三井が逆ザヤを稼ぐラストが象徴的。
それでも、「男子の本懐」。泣けたな〜

小泉純一郎の祖父さんも脇役で登場しましたが、
浜口雄幸とは大阪の第三高等中学の級友だった幣原喜重郎について
すこし違った角度から考察してみたいと思います。

昨日の記事で軍部が勝って暴走するなかで
幣原喜重郎は外交官として「不拡大方針」の幣原外交を通した人物です。

ところが、色々と細かい点から
はたして幣原外交が正しかったのかどうか、勿論
わたしは「男子の本懐」万歳派。でも、そうなると悩ましいのは
ある場面場面で後藤新平とか高橋是清とか犬養毅とか頭山満
反目に立たないといけなくなってしまう。

で、ずっと脂汗を流しながら考えていたわけです。
それで、ああその立場立場と同時に時間軸の経過というものもあるのだな
と思いましたよね。つくづく

昨日の正論が本日になると怪しくなって明日には暴論になってしまう。

まあそんなことをあれこれ記事にしても後講釈になってしまうので
それは置いて、人間幣原喜重郎を考察するために
彼の女性観をチェックチェックしてみます。

前々回の『龍馬伝』で龍馬と西郷の好きな女のタイプの
カミングアウトがありました。
西郷さんは太った女がお好みです。所謂「デブ専
龍馬は面白い女。因みに高杉晋作は天然さんが好みのようです。

さて、外務省に入った幣原喜重郎は韓国の領事館勤務となります。
ここで、英国外交官の妹と出逢います。

「あなたのほど英語の上手な日本人ははじめてですわ」

ふり返ると若く美しいイギリス人女性がいた。眩しい
若き幣原は恋に堕ちた。けれどもしばらくして帰国命令を受ける。
「神様はきっとどこかでもう一度、二人を会えるように取りはからってくれるわ」

そう彼女は言って、幣原は帰国した。
そして、次の辞令はなんとロンドン! 幣原は躊躇うことなく応諾します。

そして、神様のお導き通り
二人は再会して燃えるような恋が・・・

ところが、三菱の岩崎家の娘婿の候補として幣原に白羽の矢が立つ。
最初は断っていたのですが、次第に幣原は悩みだす。(こらこら悩んでどうする)

当時、国際結婚はまだまだ敷居が高い。
エリート官僚の青雲の夢を夢見る幣原にその敷居は高かったのか。
結局、幣原は彼女と別れて岩崎弥太郎の末娘との結婚を選ぶ。

あ〜あっ、なんか口のなかが乾いて苦かった。
でもそれもまた仕方ないか、と。
でもね、この時代でも将来を嘱望された軍人が芸者に惚れて
「軍隊を取るか女を取るか」と上司に詰問されて迷わず女を取った漢もいる。
また、児玉源太郎山本権兵衛の女房は芸者、女郎だ。
国際結婚だって、新渡戸稲造とかニッカの竹鶴正孝とかあるわけで、
そういったのが俺は好きだな。

ましてや逆玉というか閨閥云々を手がかりにするのは好きじゃない。
小村寿太郎とか原敬がそれで悪妻にヒーヒーいってる図は
がはは、様みやがれ。てなもんで愉快痛快の質です。

そういった事情もあってわたしの口の中は乾いて苦かった。のだが・・・

この幣原君が先に韓国(仁川)領事館時代時に
料亭の娘に手を出して妊娠させている。娘は郷里山口で女児を出産。
娘は喜び勇んで幣原のもとに戻って蜜月の同棲時代を続けたが
結局、二人の間の子を認知しない。避妊せずに否認し続けたのだった。

それはちょっと非道すぎないか。さすがに周囲も幣原の不実を説得し
それで幣原は認めるには認めたが法的な認知はしなかった。

で、この女子が成人して「認知してください」と裁判沙汰になったといいます。

ソースは昭和六年の雑誌『婦人サロン』から
まあ当時の新聞雑誌はいい加減ですからどこまでホントかわからない。
けれども、水戸裁判所に訴訟があった事から捏造記事じゃなさそうです。
なんといってもこの私生児は東洋生命の重役の養女になっている。

さて、どうだろう。
たかだか女一人、妾の一人や二人の話じゃないか。
と、思う人もいるだろうけれど、わたしはそうは思わない。
三木武吉に妾が八人いてもわたしは三木武吉が好きだし、
杉山茂丸に日本全国に全国津々浦々に愛人がいて
息子夢の久作がいったい兄弟姉妹がどれだけいるのかと怖れおののいても
わたしは杉山茂丸が好きだし、
ビール王馬越恭平が千二百人斬りしようと、伊藤博文が狒狒爺でも、
彼らが好きだ。

わたしは幣原喜重郎を認めない。
それは松永安左エ門が娼婦との約束を反故にした近衛文麿
認めなかったようニュアンスと同じです。
ケチな話かもしれませんがそういうところにすべてが現れる。ものです。

歴史(科学)で善悪はなかなか白黒つけられないけれど
人物の真贋は見いだせる。
ものだと思う。

龍馬が梅毒でお龍とセックスレスだったという文春の与太記事に
シラケてしまったこともありましたが、
もし万が一そうだとしたら、それはそれで立派じゃないないか。

とは別に幣原外交の本質のじっくり腰を据えて
みつめていきたいと思いました。おしまい