日本人の愛と死と性と生(カド番)
「ねえ、愛している?」
今、それを問われると、たじろいでしまう。
「ああ・・」
気のない返事が漏れるだけ。
莉子は噛む。そうやって確認するんだ。
少しずつ力を入れて俺を噛む。どこまで俺が我慢するか確認する。
そうやって愛を確かめようとする、健気というか哀しい女だ。
気が済むと、やっぱり別な不安が生まれて確認する。
「ねえ、愛している?」
それに、俺は答えられない。
いいじゃないか、そんな野暮なこと考えないで
愛しているって言ってやれば
いいじゃないか
そりゃあ、そうなんだろうが・・・
なんというか、そこでその言葉を使ってしまうと
言葉が軽くなっていきそうで
彼女が遠くなっていく気がするんだ。
バッカじゃない。
女がそれで歓ぶんなら、それでいいじゃないか。
ほら、彼女、泣き出したぞ
繰り返される確認
そのたびに囁く愛の言葉
言葉の効力が失われるようで、恐いんだ。
もっと素直に、誠実に、
向かい合いたい。
笑うよ。
笑えよ。
俺は黙って
彼女を抱き寄せる
言葉はいらない。