あかんたれブルース

継続はチカラかな

極楽通りの天国への階段



欲望という名の電車に乗って、墓場という電車に乗り換えて、
六つ目の角で 下りるようにいわれたのだけれど、
ここが極楽通りなのだろうか・・・

通りの奥にある「カナリの館」という一軒の酒場に入った。

「あらいらっしゃい。カナリヤの館へようこそ」

出迎えてくれたのは出来損ないの美輪明宏のようなマダム。
導かれてカウンターに座った。
そう広くはない店には階段があって、上から客が降りてきた。
店内はくすんだ黄色い壁紙で彩られ、マダムのドレスも辛子色。
眩暈がするような倒錯の空間に仕立てられている。

視線を感じた。

わたしが座ったカウンターの席からふたつあけた席に
六十近い男がバレリーナの衣装をまとい葉巻をくわえて睨みつけている。
苦虫をかみ砕いたその表情。それは異様なものだった。
某経済新聞の役員だとマダムが紹介してくれた。
軽く会釈したが、男は視線を外さずにそれを無視した。

わたしに何か言いたいのか?

カウンターに出されたスコッチで満たされたショットグラスを
一気に飲み干し正面に姿勢をかえ視界から男を消した。
それと引き替えにマダムの姿がわたしの視界を占領する。

この店の一階は「出会いの間」なのだという。
このカナリヤの館には二階、三階と上の世界につながっているという。
二階は乱交の間、三階はSMの間、四階は至上の間、五階はマダムの住居だという。

「あなたは南海ホークス

「いまはソフトバンクホークス

そのとき、男が叫んだ。
「俺を見ろ!」

バレリーナに視線をかえた。
相変わらず苦渋に満ちた形相で葉巻をくゆらせている。

その間に着ぐるみのうさぎが割って入って視界を遮断した。
こちを向いて笑う。

「おばんだぴょ〜ん」

「なにか飲むかい。おごるよ」

「冷やし飴だぴょ〜ん」

すかさずマダムがジンジャーとシナモンの香が混じり合った
琥珀を注いだグラスを前に置く。
着ぐるみのうさぎは両手で頭を抱えてそれを引き抜くと
なかからタヌキが現れてそれをチビチビ啜り出す。
グラスを両手で持つ姿が可愛らしい。
手を洗わせればアライグマにも似てるし、
仰向けで貝を割らせればビーバーのようでもある。
ヘビをくわえればマングース

・・・萌える。

わたしはタヌキの手をとってカウンターの席から腰をあげた。

「どちらの階へ?」

「四階へ」

「阪急ベリーマッチ」

カウンターを離れようとしたとき、バレリーナが再び叫んだ。

「こうでもしていないとやってられないんだ!」

一瞬、足を止めたが
かまわずにウサギの手を握って階段のほうへ向かった。

天国への階段をのぼっていくぴょ〜ん