追憶のなかの時雨
おかあさん?
そのひとは、時雨の傍らにたつ俺に目をむけると
「こちらの方は・・・」
「馬太郎と申します」
「まあ、外人さんかと思った・・・」
「クオーターです。台湾人が四分の一と韓国人とベトナムとブータンです」
「日本人がはいっとらんやないか!」
つっこまれてしまった(汗)
「そんなことより、」
無視された(涙)
「時雨ちゃん、家を出てからぜんぜん連絡しないで・・・
一度帰ってちゃんとお父さんに謝らないと」
「おとうさんは?」
「いま、八ちゃんのところで飲んでるけど
もうそろそろ帰ってくる頃よね。
どうする? でもお連れさんが一緒じゃあねえ」
短い会話のやり取りで俺はすべて察した。
時雨は獅子座のA型。スリーサイズは上から88・88・88
好きなものは米の飯。嫌いなものは鶏肉とアボガド。
ただアボガドはまだ食べたことがないんだ。
食わず嫌い。奥手なんだ。
高校時代は体操部で猫舌だけど冷たい物も苦手。
人見知りで押しに弱くてお人よしなのに人を信じない。
そりゃそうだよねスズメなんだから。
サーカスにあこがれて家を出たんだ。
でも木暮も木下も雇ってくれない。
「白い鳩だったたらねえ」
スズメを雇うサーカスなんてありゃしないさ。
梅田で広告代理店のアルバイトをしていた。
北浜にお使いにいって迷子になって
東京まで来ちまったんだ。
疲れた羽を休めたところが俺の家のベランダで
止まり木かと思ったのが俺の肩だったわけさ。
そんなことを妄想していたら
あれ? 時雨のおかあさんがいない。
「帰ったで」
「帰ったって、いいのか時雨」
「ええよ」
「そうはいかない。せっかくの機会だ」
「どうすんの?」
「俺がついていってやる。家はどっちだ」
戸惑う時雨の手を引いて
俺は時雨の実家をめざした。
つづく