あかんたれブルース

継続はチカラかな

風の吹く夜でもいつでも



ここがすずめのお宿か、じゃなくって時雨の実家。
表札には「並木」と楷書体で刻まれていた。
木戸をくぐって、古めかしい木造の二階建て
玄関で深呼吸すると
時雨が俺の手を振りほどいて先になかに入った。

「ただいまあ」

奥から出てきた母親が、俺をみて
一瞬戸惑った。

奥に通される。

しばらくして父親が現れた。
職人気質のイカツイ顔をしている。
父親も、時雨も、何も言わない。
沈黙が三人を包んでいる。

「おとうさん! 時雨さんを僕にください」

「おとうさん? どこの馬の骨かわからん奴に娘をやれるか」

「時雨さんを幸せにします」

「時雨はちゃんとした銀行員に嫁がせて
 この並木の家を継がせる。お前のようなやくざにはやらない」

「僕はやくざではありません」

「やくざでなければ芸人だ。お前、この間梅田の地下街の寿司屋で
 知らないおやじに芸人に間違われただろう。
 そのあとは新世界で筋者に間違われて警戒されただろう」

「なんで知ってるんですか? あれはおとうさん?」

「アホ! そんなことはすぐ察しがつく。
 それにお前は時雨を幸せにするというが
 いったいどうやってどういうふうに幸せにするつもりだ」

「一生笑わせます」

「やっぱり芸人じゃないか」

「一生嘘をつきます」

「なにい、嘘だとお」

「永遠の嘘をつきます」

「なんだそれは?」

「愛です」

「愛、だと・・・」

その言葉をかみ締めるように
つぶやくと父親は席をたって部屋から出て行った。

詳細はこちらで
http://www.youtube.com/watch?v=cfHxDZ5fP7s


ふと、我に返ると

西陽の差す畳の部屋で時雨が寝息を立てている。
ポケットからハンカチを取り出して
そっと時雨にかけて、想う。
風の夜は怖がって眠れない時雨
ずっと俺にしがみついている。
そんなとき俺は妄想お伽噺を語るんだ。
ワンパターンだとブツブツいうけれど
父親に俺が時雨を貰い受けるシーンでは
いつも目を輝かせている。
俺は永遠の嘘をつく。
それをなぞるようにして時雨と添っていきます。


http://www.youtube.com/watch?v=UGy9llIiCjo&NR=1