あかんたれブルース

継続はチカラかな

流されて、何処へ



大菩薩峠』という超長編時代劇小説があります。

大正2年から昭和16年にかけて
都新聞(現東京新聞)、毎日新聞、読売新聞などに連載
作者の中里介山の死去から41巻の未完となった幻のギネス小説。
いや、大衆小説の先駆けとされる不朽の傑作。

この作品の最大の特徴は主人公机竜之助にある。

この男、超危険。そして「悪」なのだ(汗)
剣の達人でもあるのですが、がゆえに凶器である。
「人は金や名声のために生きるが
 俺は人を殺すために生きる」なんて宣まっている。

理由もなく人を斬る。

この竜之助が故郷武州沢井村を出奔する理由も
奉納試合の対戦相手の妻(お浜)から「負けてください」と頼まれ
なのに彼女をレイプして、試合ではその夫を撃ち殺し
そのお浜と江戸に駆け落ちする、という無頼漢。
しかし、危険な男は女にモテます。
ヒルというかペシミストなんだなあ。

結局、そのお浜との間に一男をもうけますが
生活苦からキンキン言うお浜を斬り殺して
赤ん坊の郁太郎を残してまた出奔。放浪癖もある。

作者の中里介山はこの作品を「大乗小説」と呼び、
仏教思想に基づいて人間の業を描こうとした。ということですが、
因果応報、因縁、宿業の綴れ織り。
まあ、一種の怪談噺でもあって非情の竜之助も
お浜の亡霊に苦しんだりする。
また、天罰か天誅組に参加して討伐隊との戦いで盲目となってしまう。
盲目になっても強い。のですけどね。

これまで何度も映画化されています。
代表的なのは東映版の片岡千恵蔵大映版の市川雷蔵主演のもので
片岡千恵蔵の演じる竜之助は
顔がデカくてしっくりきません(涙)。
千恵蔵にこういった非情のライセンスは無理がある。

やっぱり市川雷蔵だな
眠狂四郎とダブってしまうわけだ(汗)
「音無しの構え」の机竜之助と
円月殺法」の眠狂四郎

時間軸的に、柴田錬三郎はこの机竜之助を意識して
眠狂四郎を書いたと思う。
市川雷蔵主演の『大菩薩峠』を柴錬が観て苦笑いしただろうなあ。

眠狂四郎は「黒ミサの子」という宿命を背負っている。
ハーフなんですね。わかりづらいのですが赤毛です。

凶器の机竜之助の殺戮は続く
その竜之助を仇と狙う宇津木兵馬に対して
慢心和尚なる坊さんが、そういった無益なことはやめろと止める。

「しかし、このままほおっておけば竜之助は
 罪もない人々に害をなす」と兵馬は食い下がる。そりゃそうだと頷く。

けれどもこの坊さんは「それもいたしかたなし」と意にかえさない。

敵討ち仇討ち、復讐は儒教から発しています。
ここに封建武家社会での大義名分がある。
だけでなく、人間の感情としてそれは自然に芽生えると思う。

しかし、仇を討っても討たれた側からすれば、相手は敵だ。
ここに復讐の連鎖が生まれる。
坊さんはそのことを諭しているのかな・・・と思うのですが
相手は殺人マシーンなのだ。
ほっておけば意味もなく辻斬りなどで老人や女を斬り殺す。
「それも致し方ない」というこの坊さんの達観はなんだろう?

映画は三部作で完結篇でした。
実際にはまだまだ続くのですが、
結局この完結篇で机竜之助は死なない。いや死ねない。
台風による川の氾濫で屋根の方舟にのってどこかに流されていった。

竜之助にとって、生きていることが地獄だと思った。

でもなあ・・・