あかんたれブルース

継続はチカラかな

精神論ではなく現実論として

良識派の壁(1)


『あゝ決戦航空隊』という東映作品があります。

原作は草柳大蔵ですが、脚本を笠原和夫が手がけました。
製作時がちょうど東映実録路線のまっさかりで
主演の鶴田浩二大西瀧治郎
共演に池部良 (米内光政)ここまでは前の任侠路線として

菅原文太(小園安名)
梅宮辰夫(玉井浅一)
渡瀬恒彦(貝田義則)
松方弘樹(城英一郎)
室田日出男(猪口力平)
山本麟一(阿南惟幾
内田朝雄(島田繁太郎)
遠藤太津朗(寺岡謹平)
三上真一郎(赤松貞明)
金子信雄(手塚中将)
伊吹吾郎(久納好浮)
北大路欣也(関行男)
小林旭児玉誉士夫

まるで仁義なき戦い・・・(汗)

まあ正確にいえば任侠と実録の混合で
最後の博徒』のような、まさに決戦東映大作なのだ(涙)

この映画は娯楽作品としてでなくて
「哲学」的にというか、倫理とか、現実的にとか
非常に深い作品です。
戦争反対反対を連呼して、とにかくこういったものを
毛嫌いする人たちには是非観てほしい。観ないだろうなあ・・・

別に、戦争を肯定するものではないんですよ。
戦争の実態や本質をよく知って考えてほしいのです。


太平洋戦争末期、日本は終戦工作を模索していました。
そのなかで、最後までそれに反対していたのが
特攻隊の生みの親といわれている大西滝治郎
この映画の主人公だ。

現在の歴史観、常識からすればとんでもない軍人だ。

ただ、色々な事実を探っていくとそう単純な話じゃない。
そのことは以前も記事にしたので
ここでは触れません。
わたしは大西を弁護、擁護はできる。
好き嫌いでいえば、
海軍良識派(米内光政・山本五十六・井上成美)三羽烏より
心情的には好きです。

けれどもだ、合理主義者であった大西が
終戦間際まで二千万人特攻を訴えて
あくまで徹底抗戦姿勢を主張し、
米内光政と衝突した事実には、怯んでしまう(汗)。

これは乃木名将論者に「白襷隊」と投げかける
以上の効果だと思います。

この映画では、脚本家の笠原和夫がその謎解きの鍵を
与えてくれている。解いてはくれない。ヒントだけ

大西はいう。
いまここで降伏すれば先に死んだ特攻隊員に申し訳がたたない。

でもさ、
特攻隊で死んだのは
海軍で4,156名。陸軍で1,689名。
その他特攻作戦関連戦没者が8,164名。
合計1万4009名です。

太平洋戦争で死んだ日本人は軍人174万0,955人。民間人 39万3000人。
合計で軽く200万人を越える。桁が二桁、×2ぐらい違うのです。
ましてや、広島(14万人死亡)長崎(14万9000人死亡)に
原爆が落とされたいるわけだ。

そういう時期に、終戦反対で2000万特攻なんて
狂っているとしかいえませんよね。


違うのだ。

大西は、2000万人の特攻が非現実的だということを
わかっていて主張している。
この言葉には、天皇および各責任者の戦争責任を糾弾し
敗戦するならば、天皇を先頭にそういう連中が特攻せよ
つまり、死ねといっている。

ここでいう「戦争責任」はマスコミや
一部の偏った史観の持ち主のそれじゃありませんよ。

大西瀧治郎や小園安名がいう
責任者の戦争責任だ。



大西はいう。

でなければ、日本は、日本人は、だめになる。



これは、合理的な数字の被害の比較じゃない。
あくまでも、精神論なのだ。

若い頃、わたしは
この意味がよくわかりませんでした。

敗戦は国家の滅亡ではなく
国民が健在ならば国家は復興できる。
こういったのは鈴木貫太郎(当時首相)でした。

敗戦から復興して日本は豊かになった。
しかし、日本人はどうだろう。

わたしが以前、
昭和天皇は死ぬべきだったという記事を書いたのは
そういうことです。
筋を通すべきところで、それをなさなかったから
世の中そんなものと、みんなが倣ったわけだ。

誤魔化せばいいとか
責任は回避したほうがいいとか
正直者は損をするとか
勝てば官軍、あがってナンボとか


大西瀧治郎は最期まで合理的な人間だったんだと
最近になってしみじみと思うのでした。