あかんたれブルース

継続はチカラかな

運命の人




「どこかに私の運命の人はいないかなあ」

「いるよ、ここに」

「毎度ワンパターンの出だしね
 ・・・で、なんでそういいきれるの?」

「僕にとって君が運命の人であるとすれば、
 君の運命の人は僕。だろ」

「私のことはこの際、横に置くとして
 なぜ私があなたの運命の人って言い切れるの?」

「ほう、論理的に来たな。よろしい答えよう」

運命というものをあらかじめ定められたモノとする
思想のようなものがある。

「あなたの持論では宿命はそうかもしれないけれど
 運命はそういうものじゃないって言ってるわよね」

その通りだ。運命は切り開いていくもので

 僕の前に道はない
 僕の後ろに道は出来る。(『道程』高村光太郎

人生一寸先は闇なのだ。

「それじゃあ運命の人なんてあり得ないじゃない。矛盾する」

まあ最後まで聞けよ。
人間には宿命というものがある。
これは生まれたときから背負っているものだ。
アカシックレコードみたいなもので
それぞれの人生には意味、目的があるものだ。
人間の生きる目的はそれを成就させることにある。

「目的ってなに?」

難しくいえば天命であるし、
平たくいえば幸せになることだ。
開放とか自由とかじゃないかな。

「お金持ちになりたい」

それは手段のひとつであって、それだけでは達成はできない。

「達成しないといけないものなの?
 なんか面倒くさい気がするわ」

自分の魂が欲していることだから
最終的にはそうしないと身が持たないんじゃないか
それを見誤ったり見失えば身を持ち崩すのがオチさ。

「で、運命の相手ってなに?」

それを達成するキーマンというかパートナーだ。

「相手を利用するみたいに聞こえるけれど」

「僕にとって君が運命の人であるとすれば、
 君の運命の人は僕。だろ」

「都合のよい解釈に聞こえるのは気のせい?」

これは自然の法則
当たり前の、当然の理屈だ。

「だとして、そういう相手をどうやって識別するの?」

自然に自ずとわかるさ。

「直感みたいなもの? なんか頼りないわねえ」

ひと目会ったその日から恋の花咲くときもある。

プロポーズ大作戦のイントロじゃない、一目惚れのことかしら?」

まあそういうのもある。鐘が鳴るって話だよ。
僕の場合は後光がさしてみえたけどね。眩しかった。
でも、もっと具体的にいうとね、
そういう相手と出逢ったら過去に付き合った相手と比較してみるんだ。

「そういうのって失礼なんじゃない」

別にそれを口に出す必要はない。考えるだけさ。
人間には個人個人に趣味趣向があるものだ。
ししゃもやホタルイカが好きな人がいる。
でも魚や生モノが苦手な人は敬遠するよね。
そうでもない人でもシシャモやホタルイカ
目玉が歯に詰まって敬遠する人もいる。
でも、それが運命の相手だったら苦にしないんだ。
たとえめんどうでも目玉をよそってはずしても
うまく取り出して、それに執着する、ものだ。


君は僕の運命の人だ。

「わたしはホタルイカなの!」

君の自虐的で懐疑的で嫉妬深く厭世的で意地汚い愚痴っぽい性格
これがホタルイカの目玉だ。シシャモや煮干の目玉。
それは決して長所とはいえない。いえないけれども
ホタルイカを愛してやまない僕にはそれで君を嫌いになったりしない。
むしろ、その目玉の障害こそが執着を生む。
その目玉が君を探す手掛かりなのだ。

「なんか嬉しくないわねえ」

時間は一方向に螺旋を描いて進んでいる。
後戻りはできない。だから運命が定まっているなんてことはない。
けれども、おおよその方向性のようなものはある。
それが趣向というもので、そのときどきの出会いが行き先を
定めてくれる。
そのときどきの出会いってものが
必ずしも運命の人ってわけじゃないんだ。
でもね、どんな事にも意味があるように、どんな出会いにも意味がある。

すべての出会いで、惹かれる相手には
運命の相手のなにがしかの片鱗があるものだ。

自虐的だった薫
懐疑的な佳子
嫉妬深かった順子
厭世的な梢
意地汚い久美
愚痴っぽい冴子・・・

そういった片鱗をあつめて形作れば、君になる。
君は僕の理想。僕の運命の人なのだ。
僕はずっと君を探していたんだ。
そして、みつけた。やっとたどり着いたのさ。
だから離さない。

「ちょっと・・・いったい何人の女がいたのよ
 はじめて聞く名前もあるしぃ
 どういうこと。ちっとも嬉しくないし!」


あれ?