あかんたれブルース

継続はチカラかな

中の人



というのには様々な意味合いがあるようですが
わたしの恋人は紛れもなく中の人です。

どんな着ぐりみを?
どんなキャラを?
どんな異次元に棲んでる?

彼女は一般的にいうと多重人格です。

その核となる本質はとても純粋で妖精のようだ。
いや、まさに妖精そのものだ。
それに触れると癒されるのです。
こんな人が存在していたなんて・・・

けれども、現代社会でそのままでは生きていけない
成長過程で彼女はそのことを知ります。

社会性を身につけるといえば聞こえはいいですが
そのプロセスは残酷でもある。
そして、彼女はしくじった。

彼女は生きるために新しい人格を生みだしていった。
それは幼子が、身を守るために
鎧や仮面やマントを羽織るようなものです。
それが自然なものだったらいいのだけれども
あまりにも本質とかけ離れている
ブカブカの衣なのだ
それをたくしあげて、彼女は大人の仲間入りをする。

本質を置き去りにしたままで


その本質と外郭の間に隙間ができている
ときどき、カランカランと音がする
器のなかで彼女の本質が戸惑う音がする
せつない音がする

隙間はどんどんひろがって大きな空洞ができていく
その一番奥の暗い部屋からそっと外界をのぞきます。
彼女は外が恐い。他人が怖いのです。
苦手なのだ。
だからそういうことは拵えたもうひとりの自分に演じてもらう。
そうこうしているうちに
もうひとりの自分はどんどん肥大して
本当の自分はどんどん小さくなっていきます。
消えてしまいそう

テレビとかで多重人格を紹介するときに
それを支える恋人はすべてを愛していると答えていた。
模範解答だ。そうあるべきなのだろうと考えたこともある。

しかし、わたしにはそれができない。
無論、もうひとりの彼女も彼女であることにはかわりない。
別にそれが嫌いってことでもないのです。
ただ、ときどき憎らしくもある。

わたしは彼女の本質に恋をした。
けれどもなかなかその本質は表に姿を現さない。
もう一人の彼女も、紛れもない彼女なのですよ。
でも、わたしは彼女の本質が、魂が気になってしかたない。

生きるために嘘をつく女がいるけれど
彼女もその部類?
いえ、彼女は嘘をつかない。
そのかわりに貧乏くじばかりを選ぶのだ
そして逃げる、身を引いてしまう。
そんなものさ、と
さびしい風にふかれている
ひとりぼっちで。

今度もまた、身を引いてしまうのではないか。
もし、いま彼女を手繰り寄せられなければ
本質が偽りに完全に乗っ取られて
わたしは彼女を見失う

それが恐いのです。

私たちに残された時間には限りがある。
愛は永遠というけれど、残された時間は少ない。
リアル世界では、
もう彼女は出てこなくなった。

強がってみせるもう一人の彼女に
そのことを伝えることにも躊躇します。
それはある意味で彼女を否定することでもある。


俺が抱きたいのはお前じゃない。
彼女を抱きしめたいんだ。


案の定、ショックを受けていました。
傷つけてしまった。
彼女自身、それを理解したとしても
どうしていいのかわからない。

信じること
信じる勇気を
神よ
彼女に与えてください。


「どこかに神様はいないかなあ」

「ここにいるよ!」

「そういうオチにするわけね」

「ま、ひとつの芸風というかお約束というか」

「誤解を招くわよ」

「約束したじゃないか」

「約束」

「したよね」

「うん・・・私 がんばれえ」


その言葉を聞いたときに言葉が零れた

「愛してる」

なんのてらいもなく気負いもなく自然に
生まれて初めてその言葉が零れた。




PS.
愛はまだ途上です。
この道をわたしは彼女と
そして、もうひとりの彼女と共に往きます。

月が燦燦と恋人たちを照らす
祝福してくれているようでした。