あかんたれブルース

継続はチカラかな

父の悪夢

父の書棚(4)


父はよくうなされていました。
金縛りとかだったのか?
幸子は、うちの実家にはよくない霊がとか
話すけれど、わたしは父がうなされる
理由のひとつを知っている。

それは偶然、うなされていた父を
母が揺り起こしたときに聞こえてきたものです。
父はある悪夢に苛まれていた。
よくみる夢なのだそうです。
うなされているときは
できるだけはやく起こしてくれと
母にいっていました。

その悪夢から逃れて呆然とする父は
二十数年前のある体験を語り始めた。

それは松下電器に勤めていた頃
大阪の大空襲があった翌日ですから
昭和二十年三月十四日のことではないでしょうか。

焼け跡の町を父は歩いていたそうです。
大人達は瓦礫を片付けていた。
子供たちは無邪気に遊んでいる。
そんな雑踏を父は歩いていた。

突然、背後でパーンという炸裂音がした。
振り返ってみると四、五才ぐらいの子が倒れている。
不発弾かなにかを触ったら破裂して
その破片にやられたのでしょう。
すぐに近くにいた母親が駆け寄って抱き起こした。
そしたら子供のお腹の傷口から腸が飛び出すのだ。
それに驚いた母親は一生懸命に
それを子供のお腹に戻そうとする。
でも真っ赤な内臓は母親の手を赤く染めて
押し戻されて母親の手からこぼれ出てくる。
母親が狂ったようにそれを繰り返す。
子供は一言も声をもらさない。

父は身動きとれなかった。

その光景が頭からはなれず
たまにこうやって悪夢になって
終戦から25年以上経っても
父を苛んでいるようです。

その話を母に語って
こう言った。

「そんなことをしても無駄なのに
 親の煩悩ってやつだよなあ」
と深くため息をついた。