あかんたれブルース

継続はチカラかな

心のBGMにこの一曲を

I&U研究所(残酷な話-9 芸術性)


芸術性という捉え方で映画というものを
感動とか文芸とかアカデミックに評すると
どうしても
悲劇>喜劇 というふうになって
なかでもハッピーエンドはそれだけで
評価が二枚も三枚落ちてしまう。

わたしはアメリカ人の血が入っているのか
淋しがり屋で、ハッピーエンドの
ブコメディーが大好きです。
東映実録路線で一番好きな作品は?
と問われたら
仁義なき戦い 組長の首』と即答するでしょう。

では、映画音楽で一番好きな音楽は?

「えっ、一番ですか?」

はい、一曲選んでください。

「ベスト10とかじゃなくて?」

一曲!

一曲かあ・・・
難しいお題だなあ・・・


赤い風車・・ムーラン・ルージュの唄
http://www.youtube.com/watch?v=aKhrRgadxhc
『赤い風車』は1952年のイギリス映画
作品自体は超有名作というわけではありませんが
この主題局の「ムーラン・ルージュの唄」は
どこかで聴き憶えがあるのではないでしょうか?

昔ね、日曜洋画劇場のエンディングに用いられていた。
それもあって、数々の名作の余韻を
この曲が奏でてくれるようでもあるんだな。

それにしても、どうでしょう
なんともロマンチックなメロディーだよね。
人生のなかで
みなそれぞれにBGMがあると思う。
なにかのとき電車の車窓から
雑踏のなかで、ひとりきりのオフィスで
宵闇の夜景のなかで人知れずハミングする
そんな曲があるものです。ないか?

さて、甘く切ないこの曲が流れる
『赤い風車』は切なさを超えてとても残酷な作品だ。
主人公はアンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック
という実在の画家のお話。
伝記なのだ。
ロートレックという名前は聞いたことあるでしょう。
19世紀から20世紀、世紀末を彩った芸術家
たぶん、絵をみたら
あっ、この人の絵ね。とわかると思う。

そのモチーフはパリ、ムーラン・ルージュ
踊り子達の風俗画です。
彼は貴族(伯爵家)の出身ですが
親同士の血縁結婚と13歳と14歳のときの足の怪我
がもとで両足の成長が停止するという障害があった。

ニコール・キッドマン主演のミュージカル
ムーランルージュ』にもちらっと登場しますが
そういう彼にとって、蔑まれる踊り子、娼婦たちが
生み出す魅惑の世界はとても耽美なものだった。
そして彼女たちを愛情をもって描き
そして愛したのです。

しかし、愛は残酷だ。

このメロディーが美しければ美しいどのに
現実に棲む人間は
おぞましく醜く本性をあらわにする。

映画はこんな感じ
http://www.youtube.com/watch?v=Ju2ud91gULk
主演はホセ・ファーラー
プエルトリコ出身の異色の名優
ラテン系の演技派なんですね。
彼がオスカーの主演男優賞を受賞したのが
シラノ・ド・ベルジュラック』というのが
また興味深いですね。

シラノ・・・
満たされることのない無償の愛とは
残酷なものでもある。

『キスより簡単』という漫画のタイトルがあった。
その愛の残酷からすれば
死ぬより簡単といえるほどに
人生は、人間は、生きることは、残酷だ。

わたしたちが生死観というものを履き違えた
理由には様々な言い訳が用意できると思う。
けれども、生きること、愛することを
本当にそれを考え、それに忠実に在りえているのか
どうかは、疑問です。

誰しもが、その人のBGMをもっている
そのなかにこの『赤い風車』の
ムーラン・ルージュの唄」があれば
やさしい嘘がつけるのではないだろうか
きっとその嘘が
現実という名の残酷を打ちのめしてくれる
のではないかという予感するのです。