極悪人始末記
先日の記事で
「悪い奴はそうそういない
そのほとんどがセコイ奴である」
なんて気の利いたこと言いましたが
昨夜、座頭市のリメイク勝新版(松竹1989年)
を見直しましてそのほとんど以外の極悪人について
考察してみたところです。
ま、テキストとしてコレ(↓)
https://www.youtube.com/watch?v=nITOoNqlDKM
観て頂くと話は早いのですが
この作品のなかに三人の悪人が登場する。
五右衛門一家親分(奥村雄大)
赤兵衛一家親分(内田裕也)
八州取締役(陣内孝則)
この三人兎に角、悪い。人間じゃねえ。
でね、リアリティーを追及する勝新なのですが
この極悪人にリアリティーがあるかどうか
これを崩さないと馬太郎理論が揺らいでしまう。
その突破口が陣内八州様の後半の凶行だった。
凄まじい演出でしたが、これ単なる酒乱だよね。
というか精神を病んでるとしかいいようがない。
物語の中盤まで前記二人の悪人の上前をはねる
超冷酷で貪欲な守銭奴と描いていますが
観てて、そこまで金に執着するもんかなあ
とクビを捻ってしまう。
そりゃねえあればあったで邪魔にならないけれど
やり口がエゲツないでしょう。
なんか頭悪いんじゃない?と思ったら
やっぱり狂ってるんだわ。
現代の犯罪では現実に目を覆うような
信じられない事件が横行していますが
その都度、精神鑑定と
加害者の責任能力というのが即出る。
常軌を逸しているんだ。
と解釈すべきなんでしょう。
その動機や発病、初診日云々は追わなくと
不自然な価値観が彼に別な精神的ダメージを
与えていたってことで、どうでしょう。
こいつはまず外すとする。
残る二人はやくざだ。弱肉強食力がモノを言う世界
でもね、この間お話したように
そうい力学で子分は束ねられても
素人旦那衆などと共存できるだろうか?
やくざと農民一般人とは密接な関係があって
自由民権運動からの騒乱事件は
百姓とやくざの連合体で政府と戦ったわけだ。
だからあの極悪にはいささかリアリティーに欠ける。
また、五右衛門は権力を掌握するために
公然と親殺しというデモンストレーションをやった。
でもね、武士の世界で主殺しがタブーなように
やくざの世界で親筋にタテつくなんて
ましてや自ら殺すなんて言語道断。
この世界では相手にされない。
だからこの筋も机上のシナリオなのだ。
勝新太郎はその意味で脚本チェックが甘かった。
そこを大目にみたとして
この五右衛門と赤兵衛の力の崇拝思想には
矛盾というか勘違いがある。
まだ若い五右衛門は仕方ないとしても
四十を過ぎた赤兵衛が本気でそう考え行動するだろうか?
チンピラだったらイザ知らず、組織の組長だよ。
リスクが大きすぎるのと
費用対効果のバランスがとれてない。
だいたい火縄銃にそんな値がつくかよ!
だから嘘なんだよね。
デフォルメのハッタリなのだ。
こういのが横行しだしたのはいつごろか?
1963年からだ。
マカロニウエスタンのブームからさ。
これからダーディーヒーローのキャラが画一された。
アメリカも日本も
しかしそのもとは黒澤の『用心棒』だかんねえ。
でね、前も書いたけど
クール=「かっこいい」っていうのを
ペンギンガムからかスウスウする冷たい
冷酷冷淡非情のライセンスって考えたんだ。
そういう戦いが大映でも
市川雷蔵VS勝新太郎であったんだ。
クールミントVSコーヒーガムだよ。
映画産業の衰退でホットな正義漢も廃れて
テレビや漫画じゃクールが主導権を握った。
木枯らし紋次郎、子連れ狼、銭ゲバ、アシュラ
さそり、健さん、東映実録路線、半村良などなど
このなかでA級戦犯を一名挙げよというならば
そりゃあ小池一夫にトドメさす。
『子連れ狼』『御用牙』『修羅雪姫』などなど
梶原一騎に比肩する劇画原作者の帝王だ。
然るにもっとも悪質だったのが
『小池一夫のシビゴルフ』だな。
上がってナンボという思想を王道にしやがった。
これって麻雀の格言でもあるけれど
同時に言い訳でもある。
オーラス前に平和で上がってナンボって
1300だろうが!
映画化もされましたが『修羅雪姫』など
観るに耐えない。
こういうと現実はもっと残酷だというかもしれない。
確かに、
女子高生コンクリート詰め殺人事件(88年)から
埼玉愛犬家連続殺人事件(93年)ときて、
現在はそしてもっともっと酷くなって
拡大拡散しているのですが
1970年代から流れが変わったよね。
刺激の追及が度を越して
狂ってるんだよ。すべてが
と同時に
悪役悪人にリアリティーがないんだよね。
犯罪にさえも・・・
だからさ、わたしは園子温の『冷たい熱帯魚』を
評価しないのだ。
それはクリエイターとして古いからだ。
同じ残虐でも石井隆が数段上のコールドゲームだ。
だからね身近に悪い人がいたら
セコイ奴だと嗤えばいい
もっと悪い奴がいたらトチ狂ってる哀れんでやれ。
意地悪いったら、クールを勘違いしてるんだと
ペンギンガムを恵んでやれ
たぶんなんのことだかわからんはずさ。
根はバカですから
でもね、本当に悪い奴は
『座頭市海を渡る』の庄屋だよ。
三島雅夫演じた庄屋の権兵衛が嘯く
「暴力じゃ何も解決しませんよ」という正論だ。
恐ろしいねえ。本当に悪い奴っていうのは
こういう奴なんだ。