あかんたれブルース

継続はチカラかな

寅さんに学ぶ 男と女の瀬戸際と契り



寅さんをネタにして語ったりしてますが
ゆうべトリックスターさんの寅さん記事
「寅次郎あじさいの恋」と、いしだあゆみの後悔。
http://blogs.yahoo.co.jp/trickstar2003jp
は実に興味深く考えさせられるものでした。

この作品は数ある寅さんシリーズのなかでも
印象深い作品で、わたしも大好きな作品です。
いしだあゆみがいいんだな(涙)
そして、甥っ子の満男の存在が私達の代理人のように
目撃し、そして悔しがる。
寅さん、男はつらいよね・・・

さて、この記事のなかに大阪天王寺の映画館の
エピソードが紹介されていた。
寅さんとマドンナあゆみがその一線を越えそうに
なった刹那>そのシーンが来た時、
 酔っ払ったある客が「いてまえ、いてまえ」
 と叫んだという。ところが、その叫び声に反応して、
 どこからか
 「アホ、寅はそういうことをせんのがええとこやないか」
 との声。場内大爆笑だったそうだ。

天王寺というと東京だったら上野かな
動物園もあるし新世界は浅草ってとこ
上野界隈にもちょっとさびれた映画館はある。
一番館だけど日比谷とかとは違う
隣は大蔵映画だったりとかちょおと場末の感じ
そんな酔った客も入館してそうです。

字面からいくと野卑な酔っ払いの罵声
もしくは本能煩悩の叫び
対して寅さん信者の浪花親父の心意気
って図式になるんでしょう。

そう単純なものじゃない気がする。気がした。
考えさせられちゃったよ。

わたしだったら、押したおすかもしれない。
それを弁明しようとか正当化させようとか
ましてや寅さんを否定批判しようってわけじゃない。

男と女の関係
そこには契りというものがある。
一線を越えるとは契りを交わすということです。
それは本能とか欲求とかを超えたもうちょっと
先までの含みがある。
その道行きには責任とか道義とか
色々な付随するものもあるでしょうが
大事なところは互いが必要とし必要とされて
いるかという一点に絞られるんじゃないか。

寅さんシリーズのマドンナたちは
みな共通して寅さんの素敵なところを発見できる
女性たちだった。
彼女達はみな一様に個人差はあっても
寅さんを必要としたと思う。
ただし、寅さんにとってマドンナ自身が
必要であるとどこまで考えただろうか?
寅さんだって人間です。
未完成で未熟で弱いものなんだけど
そのほとんどのマドンナが寅さんのさびしさを
どこまで真摯にうけためたのだろうか。
その先まで見据えられたのはリリーだけ
だったんじゃないかと思うのだ。

一方の寅さんはあまりにもそういうさみしさに
慣れすぎてしまったのか、それを相手に求めることを
土壇場のところで躊躇し葛藤しあきらめてしまう。
♪どうせおいらはやくざな男
と自嘲し引いてしまう。

この作品で寅さんは泣きました。
その場面はないけれど、満男がそれを目撃している。
寅さんにも語りつくせない悔やみがあったのだ。
そういう自分自身の不甲斐なさを恨んだのだ。

その場面はなくとも、超せつない。

男と女の関係は理屈を越えたところにある。
そこまで察したかどうかわかりませんが
場末の映画館で叫んだ酔っ払いの掛け声は
下品な表現ではあるけれど
ある種のエールでもあったともいえる。

司馬遼太郎の「翔ぶが如く
平たくいえば「案ずるより生むがやすし」
カエサルの「ルビコン川を渡れ」
古今東西そういうツボはあるものだ。
たまたま天王寺あたりでは「いてまえ」となった?

男女のそれは相性もあればタイミングもある
同じ相手であっても出会った時期が
早いか遅いかでも違うでしょう。
互いがそこまでの成熟に至ってなかったとかね。
その意味でおおかたみんな未熟だとしたら
契りのタイミングなんてニワトリとタマゴの関係
なのかもしれないしね。だーれもわからない。

たださ、いま抱きしめてしまわないと
枯れてしまいうんじゃないか
そのまま流されて消えてしまうんじゃないか
そういう怯えはあると思うんだ。
おおかたはそれを間違いといわれるんですけどね。

後にいしだあゆみがこの作品を劇場で観て
泣いた逸話が添えられていましたね。
それは、いしだあゆみ
役者として、かがりとしてではなく
彼女自身の女性として、人間としての悔やみ
だったんじゃないかと思う。
それはそれでよい話だと思います。けどね。

なかなか一線を越えられない不甲斐ない寅さん
ではあるけれど、寅さんが偉いのはただ悔やむ
だけではなく、その後で必ず彼女達の幸せを祈ることだ。
それが寅さんの魅力であり
私達の救いでもある。

記事では寅さんとイエスキリストを重ねるという
比較論の本を紹介していましたが、なるどほと
うなづける。

寅さんの不甲斐なさ愚かさには
ある種の崇高がある。
盆暮れ正月にはそれを拝みにいってたんでしょうね。

「アホ、寅はそういうことをせんのが
 ええとこやないか」

わたしもその場にいたら
きっと笑ったことでしょう。
男はつらいよ あじさいの恋』
興味をひいたら是非ご鑑賞をお奨めします。
いい色合いで味わいで男と女が描かれております。