あかんたれブルース

継続はチカラかな

ネタバレ御免『くちづけ』のカウンターキッス



院内鑑賞のラストは『くちづけ』
・・・参ったよ。
ちょいす姉さんが「たまらん」といってたが
わたしゃ昨夜消灯後に隠れて観てて
暗い病室のなかで声を殺して号泣したよ。
まったく予備知識なしで臨んだこともあって
不意打ち、闇討ち、急所突きを喰らったのさ。
参ったね。

知的障害者グループホームの話
知的障害をもつ娘と親の話だ。

前半、そのあまりにも穏やか
木洩れ日のなかの世界をみせつけられて
いったい何が正常でなにが正常ではないのか?
考えさせられてしまう。
あのフランス映画『まぼろしの市街戦』を彷彿させる。

知的障害を抱える娘(マコちゃん・貫地谷しほり)と
その父で元漫画家(竹中直人)は
民間支援施設ひまわり荘の入居者となる。
父もボランティアとして住み込みで一緒。
これまで父はずっとマコちゃんと一緒でした。
そのためい多くの犠牲も払ってきました。
マコちゃんは以前に連れ去られ事件から
男性に対する対人恐怖症(パニック障害)を
もっていました。性的虐待を受けたんだ。
ところが、ひまわり荘の住人たちには
まったくそういう拒絶反応がない。どころか
うーやんという35歳の入居者と結婚するなんっていう。
みんなピュアだから
マコちゃんも自然でいられたんだね。
これまで娘を一人で守ろうとするあまり
他の障害者とふれる機会をもたなかったことを
反省する父なのだのだ。
これまでこの父は一人で頑張りすぎた。

ひまわり荘では世間からすれば非常識な
でもとってもやさしい時間が流れている。
マコちゃんの父はその場所に癒され
ホッとする思いを噛み締めるのでした。」

しかし、その先に用意させれていたのは非情の現実
正論からすれば間違いなく「誤った選択」を
この父は・・・

だけれども、だれが
この父を責めることができるだろう。
「あの人はたくさん苦労してきたから
 誰かに頼れば誰かに迷惑をかけてしまう
 ことを知っているのよ」
この施設を運営する医師の妻はそういって慰める。

人は決して一人では生きていけない。
この正論は健常者には適応されても
障害者には通用しないのだ。
そのことを知る父は自身の肝臓がん
という運命に直面し追い込まれ、
遂には娘の首を絞めてしまう。

報道では最初、自殺と報じられたが
後に真相が明らかになる。
これは無理心中であって、そのとき
父もこの世にいない。
一緒にいたいと泣きじゃくるマコちゃんに
ごめんよ、お父さんは病気に負けたと
己の不甲斐なさを嘆く父
この父を誰が責められるのか
それもやっぱり親のエゴイズムといえるの?

こんな話いくつも転がってる
そんな「痛ましいニュース」を知ると
まるで愚か者の誤った結論の実行として
批判的な目で毅然と正論を唱え厳しい視線をおくる。
まるで穢れた因習を祓うみたいに・・・
怖れるように否定する。

知り合いの医者にもいたよ
一家心中は安産だった母親が選択する率が高いとか
帝王切開の子はストレスに弱い、とかね。
この作品でも残酷なデータでこの父親を追い込むのだ。
犯罪者で服役中の約2割が知的障害者だとか
本当にホームレスのボロボロで汚い
職がないだけじゃない本物のホームレス
あれは100%知的障害者だと。

「娘は、俺の娘は犯罪者にも
 ホームレスにもさせない」

なんとも切ないやるさない話だ。
もっとつらいのはこのグループホーム「ひまわり荘」の
お母さん(麻生祐未)、お父さん(平田満)、
娘(橋本愛)、そして周辺の人たち
たとえば巡査の仙波さんとか夏目ちゃんとかが
とてもやさしいってことでした。

「なんで相談してくれなかたんだろう?」と娘
娘役の橋本愛が良いです。
しらけた役柄しかできないかと
心配していましたが、この作品では
健全な親に育てられた健全な娘を好演してくれた。
(こら、「健全」って言葉で引っかかるなよ)

「あの人はたくさん苦労してきたから
 誰かに頼れば誰かに迷惑をかけてしまう
 ことを知っているのよ」とお母さん
「それでも、どうしようもなくなったら
 相談してくれるよね」と娘の問いかけに
「そうだねえ」とお母さんは言葉を濁した・・・

差別する動機に
慣れていないことからの戸惑い、不安、怖れ
などがある。そして偏見ですよね。
 しかし偶然のはずなのに様ざまなことが
 数珠繋ぎリンクしてるよなあ

陽だまりの彼女』で三浦透子・森桃子の役を
この作品では娘のクラスメイトとして
尾畑美依奈が熱演。デフォルメとしても
あんなもんだよねと苦笑いだった。

この作品は舞台劇で劇団「東京セレソンデラックス」の
主催者で原作者でもある宅間孝行
映画でも脚本と「うーやん」役をそのまま演じてる。
オープニングで宅間の歌う「グッバイマイラブ」が
とても印象的なのですが、これがエンディングに流れ
それでもう一度DVDを最初から・・・やられた!
この歌の響きというか伏線が実にたまらない。

作品自体、途方もない救いようもない悲劇なのに
どこかで救われる・・・ちょっと不謹慎じゃないの!
と、お叱りをうけそうだけれど
構成や演出などとは別に
日本人には「心中」という生死観、思想がある。
これはキリスト教なんかでは有り得ないものです。
別に自殺を肯定したり推奨してるわけじゃない。
そういう信仰というか思想というか考えが下地にある
ということです。

でもなあ・・・そこまでの前に
相談してほしかったね。
すくなくともひまわり荘の人たちならば
マコちゃんは幸せでいられたかもしれない。
そんなひまわり荘が運営できなくなったのは
障害者年金を食い物にする親だっていう現実。
これがたまらんね。

でもさ、この作品で答えは出ている。
どうしなきゃならないのかどうすべきなのか
後は個人個人の行動あるのみだね。

邦画では破格の90点の大台に乗せて91点です。
機会があったら是非観てみてね。
その後で色々語り合うのもいいでしょう。