あかんたれブルース

継続はチカラかな

『17歳のカルテ』の膝枕



さて、『17歳のカルテ
秀作です。まさに隠れた名作といえる。
せつない作品なのだ。
こういった精神疾患をテーマにしたものでは
カッコーの巣の上で』とか
『シャイン』『レナードの朝』とか
まぼろしの市街戦』などなど
日本では松坂慶子の『死の棘』とかが印象的。

というか、70年代から現代に至る過程で
こういった精神を患うというシチュエーションは
そうレアではなくなってきた。

この映画はこの時代さほどポピュラーではなかった
だろう
境界性人格障害・パーソナリティ障害を患う
少女の物語。
その舞台は精神病棟であり
彼女を取り巻く登場人物は精神障害者
その治療にあたる一般的に正常とされるものたち

恐いものみたさ興味本位以前に
この作品は前半から飛ばす飛ばすもう観客の心を
鷲づかみです。
なんといってもアンジェリーナ・ジョリーが最高!
なんか『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の
サトエリとダブってしまった。
佐藤江梨子は絶対この作品のアンジェリーナを
参考にしたんじゃないだろうか?

作品としてはピュアで繊細で
そして弱っちくて痛々しくせつないのだ。
真夜中の病棟の奥で繰り広げられるパーティー
拘束された不自由のなかの自由
それは喧騒と虚構にみちたしらじらしい
外の世界のパーティーのそれとは違う。

しかし作品では
それでも此処に依存してはいけないと
突きつけるのだ。
この手の作品では、誰が何が正常なのか異常なのか
というアプローチが仕組まれている。
そういのってよく考えることなのですが、
それでも主人公やその友人たちは
病んでいるわけです。
そのへんの混同はどうしてもはっきりさせないと
いけないんですよね。
ついついアンジェリーナに洗脳されそうになる。

違うんだ。その彼女も痛んでいる。
そして彼女は脱走を繰り返し自由を求めるけれど
此処(精神病棟)でしか生きていけない。

「崖っぷちに立っている人間なんてたくさんいる
みんな背中を押されたがっているんだ!」

そう吐き捨てるアンジェリーナ
けれども
「不思議なのは、誰も私の背中を押そうとしない」
「私の真実を暴けばいい!」

一見、粗暴で病棟の女番長的存在の彼女は
それとは裏腹にとても優しい一面がある。
彼女は常に仲間の背中を押していた。
結果それが悲劇になったとしても
なんというか武士の情けというかなんだろうねえ
でも本当は彼女自身が一番
その背中を押してほしかったのだった。
このへんが非常にせつないわけです。

暴力でしか表現できない日本映画
ちょっと恥ずべきだと思うよ。
この映画の舞台設定は決してキワモノじゃない。
とにかくレベルが違いすぎ。
華麗なるギャツビー』をこの間絶賛しましたが
予算とかスケールの問題じゃないね。
これは反省すべきだと思う。
客をなめるなよ。

惜しいなあと思った点は
主人公の境界性人格障害・パーソナリティ障害が
障害としてあまり描かれていなかったことかなあ
前半部分ではそういった時間軸の混乱や葛藤など
あるのですが、中盤から後半にかけて
主人公ウィノナ・ライダーは異常と正常の間で
傍観者になっていく。
というかウィノナが一番真っ当に思えてしまう。
そのぶん、アンジェリーナが
際立ってしまうわけですけどね。

アンジェリーナが演じたリサの病名は
はっきりとは明記されていませんでしたが
あれこそボーダー(境界性人格障害)とすれば
それがただ単にボダとタゲなんていう
単純な図式や解釈をぶち壊してしまう痛快が
あったんだろうにと思いました。

ま、とにかくアンジェリーナの魅力が炸裂です。
これだったらウィノナ・ライダー
喰われて本望だったんじゃないでしょうかね。
評価は85点です。
なに?もっと高得点じゃないのかって?
なんてって隠れた「秀作」ですからねえ
点数には関係なく
とにかく一押しおススメ作品。
お近くのレンタルショップで是非どうぞ
園子温のだめさかげんがよくわかるよ。
口直しにもよろしかろう。