ゲラチェックが終わったので文庫本のあとがきを書いてみました。
戦後七十年を経て、
正しい歴史認識という言葉を最近よく耳にする。
ここでいう「正さ」とは何か。
敗戦後の日本は戦前のすべてを悪として、
近現代史をタブー視し封印してきた。
風化していくなかで
自虐史観がリベラルな良識とすり替えられた結果、
様々な政治外交のカードに利用されているのが
現在の日本の近現代史ではないだろうか。
そういった思想において、
日清日露戦争は日本の侵略戦争の魁であるいう主張が定説化している。
その声に反駁するほどの知識がないジレンマから
人物を通して日露戦争を描いてみようとしたのが
かれこれ十数年前のことだった。
あれはたしか日露戦争百年を迎える年だったかと思う。
それから単行本、文庫本と経て
今回三度目の上梓となることを嬉しく思っている。
正しい歴史認識とは何か。
それはまず知ることから始まり
考えることで練られていくものである。
その作業の手法を科学するともいう。
学術というものはどんなジャンルであっても
こういった客観的な手法が取り入れられるものである。
然るに、こと歴史だけは「感情」が介入してくるせいか
善悪が生じてしまうようだ。
酸素が正しくて炭素が悪ということではないように、
戦争を嫌い平和を尊ぶ気持ちとは別次元で
私たちは私たちの歴史に対して真摯に向き合わなければならない。
そのアプローチのひとつとして、
明治に生きて日露戦争を戦った者たちにスポットを当ててみた。
人間の言動、行動原理その動機は嘘をつかない。と考えたからだ。
決して英雄伝や善悪人別帳をこしらえたかったわけではない。
私たちは歴史から何を学ぶのか。
歴史は未来を翳す篝火だという。